山に行こう 山行記録 千枚岳〜荒川岳〜赤石岳

千枚岳〜荒川岳〜赤石岳

千枚岳(標高2880m・静岡県)
悪沢岳(標高3141m・静岡県)
荒川中岳(標高3083m・静岡県)
荒川前岳(標高3068m・静岡県/長野県)
赤石岳(標高3120m・静岡県/長野県)

2004年8月4日(水) 雨
2004年8月5日(木) 雨のち曇り
2004年8月6日(金) 晴れのち雷雨
2004年8月7日(土) 晴れのち雷雨
2004年8月8日(日) 晴れ 
2004年8月9日(月) 晴れ

ビジネスホテル1泊 山小屋1泊 テント3泊 単独行

 8/4 静岡市内(ビジネスホテル)
 8/5 椹島登山小屋(台風のため停滞)
 8/6 千枚小屋(幕営)
 8/7 荒川小屋(幕営)
 8/8 椹島(幕営)

●写真

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●交通

往路JR蒲田21:16 − 品川21:26
品川21:37 − 静岡22:25(ひかり291号)
静鉄バス新静岡センター7:45 − 東海フォレスト駐車場11:10
東海フォレスト送迎バス東海フォレスト駐車場11:25 − 椹島12:12

復路東海フォレスト送迎バス椹島8:10 − 畑薙第1ダム8:53
静鉄バス畑薙第1ダム9:40 − 井川駅10:43
大井川鉄道井川11:07 − 千頭12:57
千頭14:20 − 金谷15:41
JR金谷15:50 − 熱海17:41
熱海17:45 − 川崎19:05
川崎19:11 − 蒲田19:16

●山行

8/6(歩行時間5:38)
椹島5:16-途中休憩10分-清水平8:33-休憩13分-清水平発8:46-途中休憩15分-蕨段9:28-途中休憩20分-駒鳥池11:11-休憩23分-駒鳥池発11:34-千枚小屋12:15
8/7(歩行時間4:43)
千枚小屋4:58-千枚岳5:47-休憩8分-千枚岳発5:55-丸山6:45-悪沢岳7:25-休憩42分-悪沢 岳発8:07-中岳避難小屋9:17-休憩20分-中岳避難小屋発9:37-荒川中岳9:40-休憩21分-荒川中岳発10:01-荒川前岳10:07-休憩13分-荒川前岳発10:20-途中休憩50分-荒川小屋12:15
8/8(歩行時間7:14)
荒川小屋5:05-大聖寺平5:35-休憩5分-大聖寺平発5:40-小赤石岳6:39-休憩8分-小赤石岳発6:47-途中休憩5分-赤石岳7:19-山頂散策40分、休憩86分-赤石岳発9:25-途中休憩10分-富士見平11:00-休憩15分-富士見平発11:15-赤石小屋11:35-途中休憩30分-椹島14:58

●記録文

南アルプス南部の山。ついにこの山域に足を踏み入れるときが来た。北海道・礼文島の8時間コースから始り、山というものに魅せられて10年余り。ほとんど独学で勉強してきたとはいえ、ここまでたどり着くのに随分長くかかったような気がする。
●8/4(エックシズオカ[静岡市街のビジネスホテル]泊)

前回の五竜岳でテン泊用の足回りは完成したので、その辺の心配はない。事前にたてた計画では、5日早朝に静岡を発って椹島まで行きそのまま入山、山中テント3泊、下山後椹島の登山小屋1泊で赤石〜聖を縦走する予定だった。このコースを選んだ理由は、静岡5:40発のバスに乗った場合、赤石小屋までならその日のうちになんとかたどり着けそうだからだ。
しかし、前夜8/4に静岡に入ると天気は雨。台風が接近していて明日の山沿いは大雨ということで、計画の変更を余儀なくされた。仕方なく翌日は椹島登山小屋で停滞することに決め、狭いビジネスホテルの部屋で酒を飲む。コースも変更し、荒川〜赤石を3泊4日で周ることにした。椹島に泊まることで早朝から行動できるので、1日目に千枚小屋まで行くことができそうだからだ。
テントではなく椹島の登山小屋を利用するのは、東海フォレストのリムジンバスに乗車するため。素泊まり3500円なので、ここが一番コストパフォーマンスが高い。
実は今回の計画はこれより以前にもう一回変わっている。テン泊中心の自分にとって本来山小屋に泊まる必要は無く、往きは椹島までバスに乗って、そのまま赤石小屋に入り、あとはテントで山中4泊5日、赤石〜聖〜上河内とまわって畑薙ダムに下りる予定だった。ところが事前に東海フォレストに電話して聞くと、以前畑薙第1ダムにあったシャワールームが今は無いとのこと。さすがに下山後汗を流せないのはなんなので、仕方なく風呂のある椹島を拠点に周回するルートにしたのだった。
もちろん白樺荘の温泉に浸かることも考えたのだけど、ここで入浴するのはバス+18キップで帰京する自分には時間的にちとつらい。他には全く別ルートで、塩川小屋に下山し、小屋の風呂に入るプランもあったのだけど、小屋に電話すると繁忙期のためか昼も夜も留守電になっていて状況の確認が取れない、鹿塩温泉もお盆の時期の日帰り入浴は断っているとのことだったので、結果的に上のような計画となった。
●8/5(椹島登山小屋泊)

今日は椹島で停滞なのでバスも一本遅らせて、新静岡センター7:45発の便に変えた。雨は降っていないものの、市内は曇天。ホテルから新静岡センターまでは徒歩15分ほどで、途中コンビニがあったので朝飯を調達した。新静岡センターの地下は多少入り組んでいて、畑薙行きのバス停(11−2)を捜すのに少し苦労した。乗客は数名で、うち登山者は自分以外に2名だった。
バスには車掌が乗務していて、荷物や料金などの面倒を見てくれる。バス代は荷物が10K以上の場合1.5倍となるので3800円も払うことになった。まあ3時間半も乗車するのだから仕方ないのだろう。ちなみに今回の荷は、出掛けの計量では22Kあった。
山間に入ると雨脚はどんどん強くなり、富士見峠を越える辺りでは土砂降りとなった。道路も冠水していた。途中、林道で大型バスとすれ違うことになったときは、車掌さんが外に出て対処しなくてはならず、大変そうだった。
一転、井川駅に着いた辺りで急に雨が止み始めた。休憩になったので、外に出てみるとほとんど体が濡れない。台風の雲も一段落したということだろうか? ここは大井川鉄道の終点の駅で、山の中に急にこんなところがあるので、電車が通っていること自体不思議なくらいだった。車掌さんに「よかったら帰りに乗っていけば?」と勧められた。
井川駅を過ぎると道はダム沿いの集落の中を行く。いままで山深い林道を走っていたのに家がたくさん現れたので、また不思議な気分になる。途中道路に大きな石が落ちていて、運転手さんがどかしに降りる。今朝落石があったようだ。
畑薙ダムからは椹島までの乗り継ぎなので、東海フォレストの駐車場でバスを降ろしてもらう。リムジンバスはすでに待機していて、ガタイのいい運ちゃんが、強く訛ったしゃべりで行き先と宿泊場所を聞いてくる。椹島の登山小屋だと言うと「??? 仕方ねえな」と言われる。どうやらあまり歓迎されていないらしい。3000円払って、宿泊用のチケットと交換しバスに乗った。一緒に乗ったのは、静岡から同乗してきたご夫婦2名のみ。彼らは二軒小屋までで、明日は蝙蝠岳を越えて塩見までいくのだと言う。
畑薙ダムを通過、井川山岳会の出張所に人が何人かいるのを見たのち林道のゲートを越えた。その後は荒れたダート道となり、なかなか強烈な運転で椹島まで1時間弱の乗車となった。途中いくつかの吊橋を見、茶臼、笊、聖などの登山口を確認することが出来た。
椹島には昼過ぎに到着。こんな山中にしては、随分立派な登山基地だ。受付で3000円のチケット+500円を支払って、登山小屋素泊まりの権利を得た。念のためこれで帰りのバスに乗れることを確認しておいた。シャワーは8時から13時、風呂は16時から19時だったが、今日は断った。事務所の人から話を聞くと、今日静岡発のバスは自分が乗った便以外は雨で全て静岡に引返したらしい。幸先がいいというべきか。
椹島の敷地は広大で、多くの建物が建っている。中でも椹島ロッジ別館は大きなアパートが3棟並んだかのような外観で、下界となんら変わらぬ雰囲気だった。普通に1泊2食ならここに泊まることになるのだろう。ほかには少し古めのロッジ本館や、真新しい「レストハウス椹」などがあった。
その中でも群を抜いてぼろい建物が敷地の奥にある椹島登山小屋で、本日の泊まりはここ。木戸を開けると中は古い小屋らしい質素な作り。ストーブがあり、通路の両脇が畳張りになっているだけ。それを見たら、なんだか逆に嬉しくなってきた。先客は誰もいない。外にはすぐ近くに炊事場があり、蛇口をひねれば水が出てくる。トイレも少し歩いたところに水洗のものがあるので、山の中にしてはこの上なく利便がよい。椹島のテント代は600円だから、−100円でここに泊まれるのはものすごくおトクと言わざるを得ない。ロッジなんぞよりこういうところに泊まったほうが面白く思うのは自分だけではないはずだ。
暇なので、レストハウスのほうに出かけてみる。まだ真新しい「レストハウス椹」はウッディで明るい作り。みやげ物や酒、軽食なども提供している。シャワーや帰りのリムジンバスの受付もここでやるようだ。昼時なのでついつい野菜カレーを食してしまう(700円也)。なかなかうまい。
レストハウスの正面は学校の校庭ほどの草地になっていて、出てみると昨夜からの雨で草がぐしゃぐしゃ言うほど水溜りになっていた。辺りには帰化植物がたくさん花をつけている。レストハウスの人に聞くと、テン場はこの広大な草地で、水はけが悪いから今日は張らなくて正解だと言われた。右半分はヘリが下りることがあるので、場所的には左側に張るようにしたほうがいいらしい。他には、やはり登山小屋に泊まるのがおトクだとか、この時期はツアー客に対する苦情が多いだとか、最近遭難した人の話や、椹島に来るなら新緑や紅葉の時期がお勧めだということなど、いろいろ山の情報を仕入れることが出来た。
その後は、河原に降りてだらだらと時間を過ごした。覚えたてのヨガのポーズなどとってみる。時折日差しも射してきて、天候が回復に向かっていることが分かった。小屋に戻り夕飯の準備を始めると、単独の人と、2名のグループがたて続けに小屋に入ってきた。単独の人は釣り人で、明日は荒川岳に突き上げる沢に入って遡行していくらしい。他の2名は下山してきたところで、広河原から4泊してここまで来たようだ。今日は荒川小屋から荒川岳を越えてきたと言うことで、雨風とも強くひどい目に合ったとのこと。話しついでに、付近に咲く花の情報も仕入れることが出来た。千枚小屋までの道はだらだら登りだが、雨でぬかるんでいる箇所があるようだった。
これらの人と歓談しながら、日暮れまで夕飯を楽しんだ。明日に備えて酒は抜くことにした。あたりには蚊がいるらしく、服の上から何箇所か刺された。毒の強い蚊で、しばらくすると猛烈に痒くなった。
暗くなって小屋に戻ると部屋が明るい。電気が通っていて蛍光灯が点くのだが、これは少し興ざめな気がした。明日は4時起き5時出発の予定。下山の二人には申し訳なかったけど、7時半には消灯してもらった。嫌な予感が的中して、夜中は蚊の襲撃にさいなまされた。10ヶ所以上は刺されただろうか?
●8/6(千枚小屋テント泊)

4時起床。外は快晴で、星も見えている。昨夜炊いた米を梅干茶漬けにして食べた。出発前に、登山小屋のそばにあるコインロッカーで、いらないものを預けた(1日300円也)。5時椹島出発。充分歩ける明るさだ。
椹島のどん詰まりの道を少し登って、いったん林道に出る。しばらく降ると大井川を渡る橋があって、そのたもとから千枚小屋への登山道に入っていった。しばらく行くと、登山小屋に一緒に泊まった釣りの人が入渓していくのが見えたので、一声かけてから進んだ。
いくつかの桟道を過ぎ、吊橋を渡った。板が2枚敷いてあるだけで真ん中あたりは少し揺れた。沢沿いをしばらく行った後、尾根に向かって急坂を登った。五竜岳のトレーニングが効いているのか、荷の重さはそれほどこたえなかった。尾根に出て鉄塔を2つ過ぎた先で千枚岳あたり(?)の稜線が見える箇所があった。台風一過で空気がクリアなためか、意外と近くに見える。足元を見るとチチタケがあったが、山中で初めてのキノコを食するのは危険なので取らないことにする。カラスタケというマイタケの黒くなったようなのも見つけた。匂いをかぐとなんだかゴムっぽかったが、家で調べるとこんなものも食べられるらしい。
木製のハシゴをくだり、再び登り返していくと道はいったん林道に出た。その後、鉄製のはしごを登って再び山道となり、緩く登っていく。やがて、丘陵状の明るい箇所に出て、そのあたりが地図にある小石下かなぁ、と思っていると、千枚小屋から下ってきた人とすれ違った。
更に少しづつ深い森の中を登っていくと、水の湧き出ている箇所に出た。ここが清水平らしい。飲んでみると冷たくてうまい水だった。椹島で汲んだ水を捨てて、ここの水に汲み替えた。だいぶ歩いたのでウィダーインゼリーとカロリーメイトで補給した。ここで椹島を後から出発したご夫婦に追いつかれた。今日は千枚小屋までか、その先まで行くか迷っていると言う。千枚小屋まではこの2人と前後しながら歩いていった。
そこから更に登ると湿った平坦地に出た。「蕨段」とかすれた看板がある。森の中のひっそりしたところで、あたりの緑が瑞々しい。このあたりで2000mを越えてきたので、息が結構苦しくなっている。初日なので、休み休み進んで行った。
しばらく行くと、見晴らしのいい箇所があった。もうちょっと高いところに出ようとして斜面の踏み跡を少し登ると、上には林道が通っていた。こんなところまで林道が来ているとはなんともいえない気分だが...その切り開きになった箇所からは、赤石岳〜荒川小屋〜荒川岳〜千枚岳をぐるりと見回すことが出来た。明日明後日にかけて歩く稜線だ。直下まで樹林に覆われている様には、派手さは無いけど重厚な落ち着きがあった。
再び登山道に戻り、緩い登りをこなしていく。途中右手から車の音が聞こえたりしたので、なんとなく興ざめになる。このあたりではベニテングタケやウスタケを見かけた。道がぬかるんで迂回しないと歩けないような箇所もあった。左手に目指す千枚小屋が見えた。
やがて「駒鳥池」と標識のある箇所があって、右手に少し降りると、緑に包まれてひっそりとした池があった。古い倒木が倒れた周りに藻がたくさん生えて、その上を大きなオニヤンマが一匹すごい速さで飛んでいる。鳥の声を聞きながら、コロッケパンをかじって休憩した。
駒鳥池を出発。空を見上げると何時の間にか雲が出ていた。途中には右手のほうから小屋まで、荷揚げ用のケーブルが張られている箇所があった。こんなところまで車が上がれるようになっているらしい。しばらく行くとカニコウモリ、シシウド、トリカブト、カイタカラコウ、サラシナショウマ、イブキトラノオなどが大量に咲く斜面を行くようになる。その中を抜けるように急登をしばらくこなすと、千枚小屋の前に出た。千枚小屋の後ろの斜面も猛烈なお花畑になっている。
小屋で幕営の手続きを済ませる(600円也)。ビール(600円)と日本酒(500円)も購入しておいた。ちなみに4合壜なら500円引きとのことだったが、さすがにそこまでは飲めないので、遠慮させて貰った。小屋の外では、清水平で会ったご夫婦が休憩していて、キュウリをご馳走になってしまった。結局二人は、これから中岳避難小屋まで行くことに決めたようだ。小屋の正面には笊ヶ岳が双耳峰を見せていた。その上には怪しい色合いの雲が渦巻いている。
テント場はそこから3-4分降った所。水場(引水による蛇口)とトイレは小屋近くなので、若干不便かもしれない。テントサイトは広く、丁度到着したばっかりの単独の人がいて、「(広すぎて)どこに張ったらいいのか...」などと声を掛け合う。今日は雨が降りそうなので、自分は少し高い位置に張ることにした。日暮れまでの時間、小屋の様子を見に行ったり、酒を飲んだりして時間をつぶした。小屋の人は気さくそうなおじさんで、明日の天気の話など少し雑談することができた。14時過ぎると続々と人が上がってきたので、今日はかなりの入りになるのだろうと思った。
16時くらいからぽつぽつ雨が降りはじめた。テントの中に引っ込んで、「キュウリをご馳走になったご夫婦は無事小屋までたどり着いただろうか?」、そんなことを考えながら炊きあがった米を、コンビーフをおかずにして食べた。
夕飯も終えてそろそろ寝ようかというときに、にぎやかな若いグループ二つにテントを挟まれたので、どうなることかと思ったが、20時には静かになったので良かった。そのあと12時過ぎまでは雷雨になって、グランドシートがタプタプいうほどの雨になった。雷もひどく、未明になるまで何回か目がさめるような状況だった。何とか浸水は免れたようだった。
●8/7(荒川小屋テント泊)

3時半頃から出発の準備を始めるグループがいて目がさめた。ストレッチをして体をほぐしていく。朝飯代わりにウィダーインゼリーをひとつ。昨夜の残り米は荒川岳あたりでお茶漬けにすることにした。外に出ると雷雨のおかげでテントはびしょびしょ。乾かす暇も無いので、どろどろになりながら撤収を済ませた。
小屋前は出発の準備をする人でいっぱいだ。今日はツアーが3つくらい入っているという噂を耳にした。行動用の水を汲んで5時前に千枚小屋を後にする。まずは千枚岳への登り。小屋の裏手のお花畑の中をぐんぐん登っていく。すぐにダケカンバの中の道に変わって足元にはコゴメグサやトウヤクリンドウなどが現れ始めた。
千枚岳直下になるとハイマツ帯となり、一気に展望が開けた。赤石岳や聖岳が連なって見える中を登って行った。自分よりもかなり大きいザックで、今日は百間洞まで行って最後は光岳まで縦走する、というひとがヨレヨレのぼっていく様がほほえましかった。このあたりで巨大なヒルを見かけた(ヤツワクガビル?)が、こいつは無害らしい。あたりにはタカネツメクサがあるがもうもう終わりかけだ。
千枚岳山頂に着くと、塩見岳や南アルプスの北側の山が見えた。後ろ手には赤石、聖、上河内と連なるさまが美しく見えた。目指す悪沢岳もすぐそこにごつごつした山頂を見せている。しかし今日は大気の状態が思わしくなく、雲や下界の雰囲気から、すぐにもガスが出て展望がなくなりそうな様子だった。
ここで、昨日最初にテン場についていた人が上がって来たので話し掛ける。それがきっかけで、この後しばらく前後していくことになった。このTさんは予定では、今日中に赤石小屋まで行くつもりだったそうだが、この天気を見て荒川小屋に変える気になったらしく、今夜もテント場を同じくすることになりそうだ(じつはそれどころか、翌日や帰りの電車までご一緒することになったのだが...)。
千枚岳からはいったん岩場を降る。ここからさきの斜面には様々な花が咲いていて、分かっただけでもタカネマツムシソウ、ミネウスユキソウ、タカネビランジ、イワベンケイ、イブキジャコウソウ、ウメバチソウ、ホソバトリカブト、チシマギキョウ、オンタデ、ウサギギク、コゴメグサなどを見ることが出来た。もう秋の花が満開になっている。
岩場や砂礫の中を悪沢岳に向かって高度を上げていく。予想通りしばらくするとガスが出始めて、遠望はきかなくなってしまった。つかの間にガスが晴れると、塩見や赤石の山頂も同じようにガスにまかれている。今日はこのまま晴れることはないのだろう。それでも丸山山頂に着くと、悪沢岳の岩積みの山頂だけは見えていた。ここはもう3000mを越えた稜線だ。いったん先に行って貰ったTさんとここでまた一緒になって、お互い写真を撮った。
丸山からは岩場となって、標高が上がったせいか息もだいぶ苦しい。40分ほどかけて悪沢岳山頂に着いた。残念ながらガスで展望はない。寒いので長袖を着て晴れるのを待ってみる。ついでに菓子パンやスニッカーズで補給しておく。30分ほどしても晴れる気配もないし、Tさんも先に降っていってしまった。諦めて自分も出発の準備を終えると、赤石岳の山頂が雲の切れ間から少しだけ見えた。
そこから荒川中岳との鞍部までは、急な岩場の降り。標高にして200mは降るだろうか。このあたりも、岩に張り付くようにして高山植物が咲いている。途中、鳥が羽ばたいているので何かと思うと、雷鳥の親子だった。ガスが出れば、逆にこういういいこともある。
中岳への登りは意外ときつく、小屋が見えているのになかなかそこまで到着しなかった。ようやく小屋について、ザックをおろし一息入れる。今日は展望もないし、残る楽しみは酒だ、ということで日本酒を購入(500円也)。自分よりも若そうな小屋番としばらく話をする。昨日は10数人の宿泊者がいたようで、千枚小屋でキュウリをくれたご夫婦もその中に入っていたのだろうか? この小屋に泊まるなら9月後半あたりの秋が空いていて展望もよいそうだ。
少し歩いて中岳山頂で酒を飲む。ガスの向こうに荒川前岳が見え隠れしている。そんな景色を見ながら3000mの稜線で飲む酒は格別だ。軽く酔っ払ったのち、いったん降ってザックを置き、前岳まで行ってみた。Tさんの言うとおり前岳の向こう側は、すっぱり切れ落ちていて、いつ山頂が持っていかれてもおかしくない様子だった。ここで休んでいるとき話し掛けた人は、酒を飲んでいると聞いて、サキイカをくれた。
あまりゆっくりしすぎて雨が降っても嫌なので、荒川小屋まで降ることにした。ここから先、カールのあたりは大御花畑。シナノキンバイやハクサンイチゲはとうの昔に終わってしまったようだけど、ハクサンフウロ、ミヤマアキノキリンソウ、ウサギギク、オンタデ、トリカブト、イブキトラノオ、ウメバチソウ、ウサギギク、ミネウスユキソウ、ミヤマコウゾリナ、チシマギキョウなど、数え切れないほどの花が咲き乱れていた。急いで通過するのはもったいないので、お花畑を見ながら大休止。見慣れない蝶が飛んでいて、休んでいるとザックや体に止ってくるのが、高山らしかった。荒川小屋までの途中には水場があって、美味しい水が豊富に流れていた。
荒川小屋到着。幕営の手続きを済ませ(600円也)、ビールを購入(500円也)。小屋番にお勧めの静かなテン場を教えて貰うが、それは少し離れた位置にある場所だったので、先に到着しているTさんの脇にあえて張ることにした。ここのテン場は、小屋の直下でトイレも近いし、水場も徒歩30秒だ。水量も多いので、洗濯やその他もろもろ重宝するだろう。
飲みながら、Tさんと山の話をいろいろした。南アルプス好きのTさんは相当いろいろ歩いているらしく、今回は奈良田から入って広河内岳まで上がり、池ノ沢を下って池ノ沢小屋泊。雨で1日停滞したのち、雪投沢を登って幕営。塩見に登って、蝙蝠岳経由で二軒小屋にいったん降りて、昨日千枚小屋に登り返して本日に至るとのこと。計8泊の行程だそうだ。他にも笊ヶ岳や大無限山、寸又川林道から光に上がった話など、濃い話が聞けて、情報だけでなく山への取り組み方が大変参考になる人だった。自分と丁度10歳違いの44歳。後10年後、自分はどうなっているのか...
Tさんと話しながら、たまに雨が降るのでテントを出たり引っ込んだり。それが16時くらいにテントに入ったのを最後に雷雨となって、結局その雨は22時くらいまで止むことはなかった。雷と強烈な雨。光と音の具合からすると、相当近くに落下したものもあったに違いない。ちなみにこの日の夕飯は炊きあがった米に寿司太郎。酸味があってなかなかうまいのだけど、やはり2人前は一人で食うには多い。
●8/8(椹島テント泊)

4時起床の5時出発。空を見ると快晴で、冬の星座のオリオン座が見えている。荒川小屋の正面には、朱に染まった富士山と、その手前には笊ヶ岳のつぼみのようなシルエットが美しい。すっかり意気投合したTさんと昨日の雷雨の様子をこもごも語りながら出発した。晴れと見たか小屋からも続々人が歩き始めている。
ダケカンバの樹林を抜けると大聖寺平までは緩やかなトラバース道。左手には小赤石への斜面が荒々しい。大聖寺平で小渋川からの道を合わせ、もう一段上の平坦地へ。この辺り、荒川三山の眺めがよいとのことだけど、朝は逆光となって、写真を撮るにはいまいち難しい。
平坦地から小赤石までは砂礫の急斜面をジグザグに登っていく。さすがTさんのペースは早く、それにつられてどんどん高度を上げて行った。高山植物はそれほど多く無く、チシマギキョウとイワツメクサくらいか? 小赤石の肩まで出ると大展望が広がり、ハイマツの中をもう少し進むと小赤石山頂だった。眼前の赤石岳までの稜線がすばらしい眺めだ。雲海の上に浮かぶ富士山も最高。荒川三山も見えるし、中央アルプスも対面に見えた。
緩く降って赤石小屋への分岐に荷物をデポ。必要なものだけ持って、赤石岳往復に出かけた。山頂へはそこから15分程度砂礫と岩場を登っていく。着いた山頂には誰もおらず、大展望をほしいままにできた。この時間だと、荒川三山が逆光になるのが、少し難ありか...
Tさんのお勧めで山頂からさらに百間洞方面に少し進んだ。20分ほどで着いた山頂の一角からは、聖岳の眺めがすこぶる良かった。無数のイワヒバリの鳴く中、ジンを飲みながらその景色をしばらく眺めることにした。今日中に椹島まで下山するTさんとは、一旦ここでお別れとなった。いつかの再開を誓って。
4-50分ほど一人で、景色を堪能した後、赤石岳山頂に戻った。山頂はツアー客で大混雑となっている。それを避けて避難小屋前で小休止した後、下山することにした。その頃には山頂にガスが上がって、展望がきかなくなっていた。
デポ地で荷物をまとめ、今日の天泊地、赤石小屋へ下山開始。お花畑となっている斜面を、ジグザグに急降下していく。途中水場があって、水量もそこそこあったので、喉を潤すことが出来た。顔を洗うとこれまた爽快だ。
お花畑を過ぎると、道は樹林帯に入った。細かいアップダウンを繰り返し、それが少し体にこたえるようになる。ハイマツのある富士見平につくも辺りはガスに巻かれて展望はない。ここで少し補給して、赤石小屋まで一気に下った。
小屋到着11時半。テントサイトを見ると、樹林の中で展望はよくなさそう。これからツアーの団体もいくつか降ってきそうだ。もともとTさんにその日のうちに下山しようと誘われていたのだけど、赤石小屋の様子を見てその気に変わった。出掛けに水場の様子を見ようとすると、「ポンプアップ中のため、水は小屋に声をかけてください」と掲示があって、直接汲めないようになっていた。
赤石小屋からは花や展望もなく、樹林帯の降りが延々と続いた。椹島から千枚小屋への道よりも、木の根や岩による段差が多い。降りばかり長時間歩いたせいもあるだろうが、足へのダメージは結構大きかった。途中チチタケが生えていたので、いいものを選んで幾つか拾った。アカジコウらしきキノコもとることが出来た。(家に持ち帰ったのは翌日だったが、結局チチタケのみ少量食してみた)
膝を痛くしながら椹島到着。降りを楽しむには、やはり赤石小屋にもう一泊したほうがいいかもしれない。もちろん長時間歩行したことによる充実感はあった。心配していた雷雨もこの日は全く影響なし。レストハウス裏で下山後のビールを飲んでいると、Tさんが現れ、再開を祝して宴会となった。最終日なので、豪勢に(?)ワインをあけて、酔っ払いとなった。
Tさんは明朝4時から歩いて畑薙ダムまで降るとのこと。自分は8時椹島発のリムジンバスで行くつもりなので、Tさんとは明朝畑薙ダムのバス停で再び合流。その後、彼の計画に便乗する形で、大井川鉄道のトロッコ電車+SLで金谷駅まで観光することになった。
椹島の受付はバスが着いたばかりなのと、事故があったのかレスキュー対応が重なって大行列になっている。やはりこの時期は混雑するのだろう。しばらく待って、がらがらになってからテン泊の受付を済ませる(600円也)。ついでに入浴も申し込んだ(500円也)。
その日はレスキューヘリが椹島とどこかの山を何度も往復しているらしく、それを避けてテントは広い敷地の端のほうに設営した。草地の水ははけていたので地面はOKだったのだけど、蟻やらバッタやら諸々の小虫がテントの中に入って仕方がなかった。一服した後17時半から風呂に入って、山行の汗をさっぱりと洗い流した。ラーメンを食べて19時就寝。
●8/9(帰京)

翌朝、3時半にTさんを見送った後再び軽く眠って、5時半起床。テントを撤収していると、やはり何箇所か蚊に刺された。これはまたもや強烈なやつで、1週間たった今も痒いし、皮膚がどす黒く腫れている。
レストハウスが開くまでぼうっと過ごした後、帰りのバスの受付をした。特に行列にはならず3番目に乗れることになった。レストハウスでそばでも食おうと思っていたら、朝はモーニングセットしかないらしく、それを頼んだ。6日に会話した人が覚えてくれて、無事下山したことを喜んでくれた。モーニングセットはパンとサラダとウィンナーにコーヒーがついて800円也。久々にまともなものを食べた気がした。売れ行きも上々のようだ。ついでに、帰りの酒も購入しておく。
この日は30人くらいが8時のバスで畑薙まで行くことになったようで、バスは2台出た。バスに乗ると、往きと同じ運ちゃんが運転席にいる。ダムまでだと言うと、助手席に座るように言われた。何だろう、と思っていると、道すがら山や登山道の解説をしてくれたり、畑薙から歩いている人とすれ違うと、ああいう人を見習わなきゃだめだ、と言われたり、なんとなく面映い感じがした。
畑薙ダムでは予定通りTさんが待っていてくれた。7時半にはバス停に着いたというから驚きだ。炎天下の中、一時間近くバスを待っていると、日焼けがさらに進んだ感じがした。乗車券は井川駅まで1500円(荷物料金込)。バスの乗客は丁度半分くらい埋まる程度。その半分は、白樺荘で降りて行った。
井川駅からは完璧に観光客と化す。いや。見てくれが異様なので、子供づれが多い中、むしろかなり浮いていたのかもしれない。大井川沿いを走るトロッコ電車、SLを乗り継いで酔い酔いになりながら金谷駅まで。途中千頭で昼飯を喰いお土産も買った。SLの車掌さんが登山姿の我々を見て、自分も登山が好きで笊ヶ岳に何べんも登ったのだという話が聞けたりもした。金谷駅からは18キップの旅。お盆で混雑する東海道線の鈍行で、山の話や今回の山行のことをTさんと話しながら、酒を飲み飲み帰った。Tさんとは小田原駅で握手して別れた。

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