2007年5月26日(土) 晴れ〜2007年5月27日(日) 晴れ(稜線はガス)
テント1泊 単独
幕営地:宝川・板幽橋
●ワンポイント
今回は水量が多く渡渉点で断念した朝日岳。 雪解け水+前日の雨での増水を読むことができませんでした。 朝日岳への思いは余計強まりました。次こそは、必ずや登頂を果たしたいと思います。 翌日、代わりに敢行した谷川岳日帰り。 山頂付近はまだ大きな雪田が残っていて、6本歯のアイゼンですが役に立ちました。 |
●写真
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●交通
往路 | JR | 蒲田5:54 − 上野6:22 |
上野6:27 − 高崎8:14 | ||
高崎8:23 − 水上9:27 | ||
関越交通バス | 水上駅9:47 − 宝川温泉10:18 |
復路 | 関越交通バス | 谷川岳ロープウェイ15:05 − 水上駅15:36 |
JR | 水上15:48 − 高崎16:51 | |
高崎17:29 − 上野19:15 | ||
上野19:18 − 蒲田19:46 |
●山行
5/26(歩行時間3:54) |
宝川温泉10:23-ゲート11:07-休憩5分-ゲート発11:12-板幽橋11:28-林道終点11:54-休憩4分-林道終点発11:58-渡渉点13:10-休憩64分-渡渉点発14:14-林道終点15:11-途中休憩10 分-板幽橋15:40 |
5/27(歩行時間0:59[宝川]、3:09[谷川岳]) |
板幽橋6:37-ゲート6:52-休憩10分-ゲート発7:02-宝川温泉7:46〜バスで水上・谷川岳ロープウェイへと移動〜天神平発10:38-熊穴沢避難小屋11:20-休憩10分-熊穴沢避難小屋発11:30-谷川岳山頂(トマの耳)12:33-休憩10分-山頂発12:43-肩の小屋12:48-休憩5分-肩の小屋発12:53-熊穴沢避難小屋13:40-休憩8分-熊穴沢避難小屋発13:48-天神平14:20 |
●記録文
●1日目 宝川温泉〜朝日岳〜白髪門のコースはテントを買ったときから、いつか行こうと心に決めていた山だった。 残念ながら今回は、宝川の増水で徒渉することができず、この記録の前半は敗退の内容になってしまった。 しかし、こんな山行でも(だからこそ)思い出深いものだし、何かの役に立つこともあるだろうと思い、記録を整理しようと思う。 翌日は、傷心の(?)谷川岳日帰りへと歩を進め、何とか溜飲を下げて帰ってきたという、ちょっと変則的な山行記録... |
蒲田〜上野〜高崎〜水上と長〜い鈍行乗継が終わって、水上から宝川温泉行きのバスに乗車。乗客は私を含め2名しかいない。3年前に武尊に登ったときもこの路線はガラガラだった。運転手は(たぶん親切で)久保で一瞬止まるような様子を見せてくれるも私がボタンを押さないのを見ると、バスはそのまま宝川温泉へと向かっていった。 |
巨大な門をくぐり宝川温泉到着(運賃1100円也)。質素な一軒宿を想像していたのに、意外と羽振りがいいのか(?)、大きな建物がいくつか川を挟んで建っていた。付近に朝日岳への道標は何もないのだが、林道へはその門のほうに戻って、奥へと進めばいいようだ。すぐ先の広場で乗ってきたバスが待機していて、運転手に声をかけられた。遠くから大声で「朝日岳行くの? 何時間かかるの?」と聞かれ「6時間くらいでしょう」と私。「明日はこっちに降りてくるの?」と聞かれ、「土合へ降ります」。「ああ、白髪門のほうだ」ってけっこう詳しいのね、おじさん。「ええ、谷川岳を見たいので」と答えると、聞くことは聞いたというように「気をつけて」と言ってバスに戻っていった。一人で朝日岳に向かうのを見て心配してくれたのだろうと気づき「ありがとうございます」とお礼を言って出発した。群馬ではいつもこうした懐かしい人情に出会う。 |
宝川沿いの林道をペースよく進む。宝川からは轟音が聞こえ、覗き込むと思った以上の水量・流れの激しさだ。3時間歩いた上流の地点で果たして徒渉できるのか一気に不安になった(この時点で既に敗退の予感があったわけだが、もし渡れなければどうするかは出発前からなんとなく考えてはいた)。今日は夏日になる予報で、日差しが強い。しかし空気は乾いていた。宝川と新緑の眺めは美しく、轟音を除けば上高地を歩いているようだ。川原の中には時折数メートルを超えるような巨岩が転がっており、こんな巨大な岩が荒れ狂った流れに押し流されてきたかと思うとぞっとするのだった。 |
1時間ほどで林業試験地観測所のあるゲートに到着。品川ナンバーの車が一台止まっている。宝川に流れ込む支流の流れも激しく、堰を越えて飛沫を上げていた。不安を募らせつつゲートを通過し、さらに林道を奥へと進んでいった。途中街中にいるような格好の老婆とすれ違った。こんなところまでなんだったのだろうか? 失礼な話だが、このような事象が、何もかも不吉のサインに思えてしまう。 |
板幽橋到着。ここでは宝川とその支流が滝のようになって合流している。水流は衰えるどころかその勢いを増し、あたりには爆音が鳴り響いていた。隘路のようになった滝の中を流れ狂う宝川の眺めは、まさに殺人的だった。「やばい」の三文字が目の前をちらつきつつも、林道をさらに進んだ。ゲートから先の道は長年整備されていないようで、ところどころゆがんだ舗装路が現れたりして、不気味な雰囲気をかもし出していた。倒木も多かった。時折垣間見える朝日岳の稜線は、まだ豊富な残雪を置いていた。 |
不安と暑さでペースダウンしながらも、林道終点到着。しばらく川そのものからは遠ざかっているが、聞こえてくる音で状況がまったく変わっていないことがわかる。半分あきらめつつも一縷の望みは捨てられず、行動食をとって、エイっとばかりに山道に入っていった。 |
アップダウンのある道が続いた。木の根をまたぎ、いくつもの倒木を越え、いくつもの沢筋をまたいでいった。ぬかるんだ箇所も多い。左手、樹林の急斜面の下から相変わらず水流の激しい音が聞こえてきた。断ち切れそうになる望みを何とかつなぎながら進んでいくと、高度感のある岩場に出た。キレ落ちた数十メートル下に宝川が見える。向こう岸には大きな雪の塊が残っている。落ちたら命はないし、岩にへばりついている土の足場が今にも崩れそうな(というか半分は崩れている)のだけど、ためらいながらもなんとか通過。その先ロープのつけられた岩場を降りて、さらに進んだ先に、渡渉点が目の前に現れた。 |
「だめだ!」と思わず(なぜか)失笑してしまった。胸位までありそうな水が、渦を巻いて流れている。水位が高いだけではなく、流れも速い。腿まで浸かることは出発時から覚悟していたのだが、どう見てもそれですむ状態ではなかった。徒渉点の脇には昭和40年代の小さな石碑があって、「朝日岳から下ってきたところ折からの雪解け水で宝川に吸い込まれるように云々」などど遭難の慰霊文がつづられていた。見れば遭難の日付は5月29日。なんと3日違いではないか! 宝川に流されていく自分の姿が一瞬脳裏をよぎった。背筋に寒いものが走りつつ、これ以上の前進を断念した。 |
思考がまとまるのに1時間ほど要した。この水の量を昨日の雨のためと見るか、雪解けのためと見るかがポイントだった。明日になって渡渉可能なまでに水位が減少するのであれば、この狭い場所で一夜を明かしても良い。しかし、明朝もし渡渉が不可能ならば、林道を戻って家に帰るしかなくなる。一方今戻れば、明日別の山にチャレンジするというチャンスを得ることが出来る。武尊、谷川、白髪門、選択肢はいろいろあった。 |
上越国境の空を見ると雲が出ていた。雨が降って増水すればここに幕営するのは危険だった。なによりこの忌まわしい水流のそばで轟音を聞きながら一夜を明かすのがイヤになった。明朝、寝ぼけた脚でキレた岩場を戻るのもなにやらおぼつかないだろう。悩んだ末に、戻りながら明日どうするか決めることにした。 |
難所を通過し、アップダウンを繰り返して林道までの道を戻る。暑さ、そして精神的なものもあるのかけっこう疲れが出てきた。途中から、今日はもう宝川温泉まで戻るのは止めて、どこかに幕営することに心を決めた。幕営するなら水のある場所がいい。林道までの間には1箇所おあつらえ向きのスペースがあったが、よく見ればそこは沢があふれたときにできた平地のようなので、パスした。 |
林道に出て、さらに降っていった。ところどころ流れはあるのだが、どうも場所的にいまいちしっくり来ない。というか、敗退のショックで判断力が鈍っているようだ。迷いながらさらに歩いて結局板幽沢橋まで戻って、そこの広いスペースに幕営することにした。焚き火の跡があって、過去にもテントを張った形跡がある。斜面を降りれば板幽沢から水をとることも出来た。 |
酒を飲んで、明日どうするか考えた。宝川温泉のバスは8時45分始発。武尊に日帰りするのは大変だ。水上駅でいらない荷物を預けて、谷川岳か白髪門をピストンするのがいいだろう。あとは明日の天気と気分で決めることにした。酔っ払ったせいで、つけておいた米をたくのも面倒になり、菓子パンひとつかじって18時前には寝てしまった。この日会ったのは、結局林道の老婆だけだった。 |
●2日目 4時過ぎ。明るくなり始めたころテントの脇をクマ鈴を鳴らした人が通過する音で目が覚めた。足音からするとたぶん単独だろう。川の音は昨日とうって変わって穏やかになっている。夜半からそれには気づいていた。5時になってテントを出て流れを眺めると、明らかに水量が少なくなっていた。昨日撮った写真と比べてみても滝のしぶきの量などまったく違う。「これはひょっとすると今日は渡れたかもしれないな」と思いつつも、再び朝日岳に向かうリスクを背負う気力はなく。昨日から浸けっぱなしの米を炊いて、朝食にした。 |
宝川温泉のバスの始発は8:45。テントを撤収してもまだ時間があるので、だらだらとすごしていると犬連れの釣り人が通っていった。昨日は釣り人はいなかったのに、やはり水量が減ったせいだろうか? 6時半過ぎに板幽橋を出発。ゲートに着くまでにさらに2グループの釣り人とすれ違った。どちらも先にどのくらいの人が行ったか気にしていた。15分ほどでゲート着。4台の車が止まっていた。ここから宝川温泉までは50分程度なので、ゆっくり休憩する。昨日聞こえていた支流の轟音も今日はやさしい沢音に変わっていた。 |
林道を歩きながら宝川を眺めると、昨日まったく徒渉できそうになかった川が、今日はこんな下流でもヒザくらいまで浸かれば渡れそうな流れになっていた。見れば見るほど無念さが募るばかりだった。宝川温泉に着くと、朝早いせいか、辺りはひっそりと静まり返っていた。バスの発車まではまだ1時間ある。ベンチに腰掛け、半ばやけになった私は朝っぱらから焼酎を水割りにして飲んだ。飲んでいるうちにだんだん気分も落ち着いてきて、このまま帰ったのではかえってストレスがたまって後悔しそうな気がしてきた。これからどこか日帰りで登ってやって、このやり場のない心の支えを発散して帰ろう...武尊はこれから登るにはちょっときつい。白髪門かロープウェイ利用の谷川岳。どちらか水上に戻ってから決めることにした。 |
※ちなみに宝川温泉の日帰り入浴料金は1500円と書いてあった...かなり高めの設定だ。 |
バスで水上に戻ると、丁度20分くらいあとに谷川岳ロープウェイ行きのバスがあった。駅前のパン屋で水と弁当を調達し、いらない荷物はコインロッカーに預けた。バスは10人くらい立ち客が出るほどの混雑で出発した。空を見ると、雲が出始めていた。少しでも展望を楽しむには、早く高度を上げられる谷川岳がいいだろう、と心は決まった。 |
谷川岳ロープウェイは6数年前Kさんと一緒に乗った後全面的に改修されたのか、駅舎もゴンドラも格段にきれいになっていた。10分ほどの乗車で天神平へ。ゴンドラからは、白髪門が良く見えた。天神平に降りると、風が冷たかった。うっかり長袖もコインロッカーに入れてきてしまったのだが、幸いウィンドブレーカーがザックの底に入っていたので、Tシャツの上に着た。 |
観光客の多い天神平の脇にはまだ雪が残っていて、それを越えて登山道へと入っていった。熊穴沢避難小屋までの道は若干のアップダウンを交えながらの緩い登り。木道も多い。右手には豊富な残雪のある谷川岳が見えてきた。頂上部はガスで見え隠れしている。おそらく山頂に着くころには展望はないだろう。登山道にはところどころ雪が残っていて、滑りやすい箇所があった。下山してくる人も思いのほか多く、すれ違いにけっこう時間がかかった。足元にはショウジョウバカマやイワカガミの花が咲いていた。 |
熊穴沢避難小屋到着。ここから谷川岳を眺めると、頂上付近の急な雪田を登って行くグループが見えた。一応6本歯のアイゼンはあるし、とにかく行けるところまで行ってみることにする。 |
天神尾根の登りは岩がちで、ところどころロープもある。昨日の疲れか朝酒を飲んだせいか、若干足が重いので、ゆっくりと高度を上げていった。この時間帯、すでに登ってくる人よりも下山してくる人のほうが多かった。森林限界を超えて、視界が開けると上越国境の尾根が良く見えた。この尾根もいつか歩いてみたいコースだ。暑くなりTシャツで歩いていたのだが、さすがに風が強くなって寒いので再びヤッケを着込んだ。 |
1時間ほどで頂上直下の雪田に到着。降りてくる人を待って登りにかかった。けっこう傾斜があるので、念入りに雪を蹴込みながら高度を上げていった。上から人が降りてきてすれ違った時には、緊張した。5分ほどで雪田を登りきると、そこは肩の小屋の前だった。結局天神尾根にはこの雪田以外に雪はなかった。 |
肩の小屋から上はガスに包まれていて、西から強風が吹きつけていた。山頂には私しかいない。それでもオキの耳から一瞬トマの耳が見えたので、それでよしとして、肩の小屋まで引き返した。途中、今晩肩の小屋に泊まるという年配の人と会話。7回谷川に登って今日が一番悪いといわれた。わたしゃ2回ともこんな天気なんですが...どうもこの山とは相性が悪いらしい。次は秋に来てみよう。ちなみに肩の小屋は無人かとばかり思っていたのだけど、シーズン中は(?)人がいるらしく、飲み物も売っているようだった。 |
雪田の下降に入る。降りは危ないのでアイゼンをつけた。登ってきた人と「アイゼン無じゃあぶないですねぇ」と話す。降ってみると、はっきり言って腐れ雪なのでそんなに爪は効かないのだが、ないよりはかなりマシだ。滑落でもしようものなら谷底へ一直線。高度感もかなりあるので、(未熟者の私にとっては)けっこう怖い。 |
雪田を降りきるとガスが晴れて展望がきいた。曇っているのは山頂のごく一部分だけなのだ。天神尾根の降りはところどころ露岩が滑りやすくなっているので、疲れた脚にはいささかこたえた。熊穴沢避難小屋で休憩ののち、天神平へと戻った。結局水上で買った弁当や酒には手をつけなかった。 |
降りのゴンドラでは同乗の老夫婦と会話。横浜から観光に来たらしく、山のことをいろいろ聞かれた。谷川岳は700人の命を吸い込んだ厳しい山である一方、観光で訪れることができる手軽な山でもあるのだと再認識した。 |
麓到着。急激に気温が下がっており、ウィンドブレーカーを着ていてもさむい。立派になった駅舎で、お土産と水上までの酒を購入。大吟醸「谷川岳」という酒を買ったのだけど、味のほうはいまひとつ。どうも「山」の名がついた酒で、今のところ当たりはない。バスはかなり混んで、水上駅へと向かった。 |
水上ではデポした荷物を回収。愛想の良い群馬のKIOSKで帰りの酒を購入し、次の特急までは時間もあるのでガラガラの鈍行で高崎に出た。駅の立ち食いで食べたカレーそばがうまかった。高崎からは快速アーバンに乗車。ゆっくり酒を飲みたいので、グリーン車に乗って帰った。旅客機のような座席、スチュワーデスのような乗務員に目からうろこ。お客も少ないし、ボロい特急よりも、はるかに快適に帰ることができてラッキーだった。そして今回は登頂できなかった朝日岳。いつか雪辱を果たすことを心に誓いながらの帰路となった。 |