山に行こう 山行記録 奥大日岳

奥大日岳

奥大日岳(標高2606m・富山県)
大日岳(標高2501m・富山県)

2008年9月1日(月) 晴れのち曇り〜2008年9月2日(火) 晴れ

小屋1泊 単独

大日小屋泊

●ワンポイント

大日三山を縦走するこのコース。室堂や立山の喧騒から離れて歩ける、山好きのためのコースだと思いました。室堂を起点としているだけあって、立山、剱、薬師の姿を堪能することができます。お花畑も随所にあり心を和ませてくれます。日帰りで急いで歩いている人もいましたが、大日小屋に泊まるとかなり余裕のあるプランになります。帰りは室堂で温泉につかるなり、称名滝を見物するなり、下山後の楽しみもあります。

●写真

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●交通

往路JR蒲田21:54 − 田端22:32
田端22:37 − 池袋22:46
富山地鉄バス池袋23:57− 富山駅5:30
富山地鉄富山5:44 − 立山6:32
立山黒部アルペンルート立山駅7:10 − 美女平7:17
美女平7:25 − 室堂8:10

復路立山黒部アルペンルート称名滝12:05 − 立山駅12:15
富山地鉄立山12:35 − 富山13:35
ANA富山空港17:10 − 羽田空港18:15
京急バス羽田空港18:32 − 蒲田駅19:10

●山行

9/1(歩行時間4:40+25分)
室堂8:10-雷鳥平8:52-新室堂乗越9:33-奥大日岳11:17-休憩30分-奥大日岳発11:47-大日小屋13:20-大日岳往復25分
9/2(歩行時間3:35)
大日小屋6:50-水場7:35-休憩10分-水場発7:45-大日平小屋8:49-休憩5分-大日平小屋発8:54-牛ノ首9:34-猿ヶ馬場9:46-舗装路10:15-称名滝往復20分-バス停まで10分

●記録文

●1日目

室堂へは何度か訪れているが、その度に渋い山が楽しめそうな奥大日岳が気になっていた。奥大日岳は室堂を取り囲む山の中でも前衛に当たる山。北アルプスの主な縦走路からも外れており、喧騒のない山行を楽しめそうだ。実は今回、本来だったら、2泊3日で栂池〜白馬〜雪倉〜朝日〜蓮華温泉を縦走する予定だった。ところが本州に不安定な前線が停滞していて、出発当日、北アルプスの天気も予報では雷雨になってしまった。仕方ないので白馬の予定をキャンセルしたのだが、翌日になってみると白馬含め北アルプスの天気は快晴になっていた...天気予報を恨んでも仕方ないのだが、その怒りに任せて(?)富山行きの夜行バスの席をゲット(これは運よく最後の1席だった!)。山行の後、夜行で帰っていきなり仕事、というのもきつそうなので、復路はANAのチケットを予約した。
夜9時過ぎまで降っていた東京の雨も止み、池袋から富山に向けて出発。この路線は登山用ではなく、ほとんどが一般の人たち。座席もさわやか信州号などと比べてだいぶゆったりと座れるので、楽に富山まで着いた。富山駅では15分の待ち合わせで、立山行きの急行へと接続。富山平野はちょうど夜明けを迎えたところ。たわわに実った稲穂の向こうに剱のシルエットが黒く浮かんでいる。
50分で立山駅到着。ケーブルの始発はすでに満員で、10分後の臨時便のバーコードをもらった。満員のケーブルに乗り7分で美女平到着。すぐにやってきた室堂行きのバスに乗り換える。室堂までの途中、左手に称名滝を見下ろしたり、右手に薬師岳が見えたりした。今回目的の大日三山の稜線が見え始めると、やがて室堂に到着した。空には若干雲がかかっているが、間違いなく快晴になりそうだ。はやる心を抑えながら、ターミナルの階段を上がる。外に出ると、1年ぶりの室堂の景色が私を迎えてくれた。ミクリガ池へと向かい、少し雲に隠れた立山を見ながら、フランスに帰ったK君と一緒に剱から降りてきたときのことを思い出した。K君、いつか本場のアルプスに(酔っぱらいに)行くので待ってて頂戴。
地獄谷に降り、硫黄くさいガスの中を雷鳥平へ向かう。テン場に着くと、テントの数は10張程度か。もう観光客の姿はほとんどない。沢を渡った先でメガネをはずしてコンタクトレンズに付け替えた。メガネだと汗がついたり、ガスで曇ったりして危険なので、山ではコンタクトに替えることにしている。急には焦点が合わずゆっくり歩きながら...別山乗越への道を右手に分けて、新室堂乗越へと進んでいった。
夜行明け、3カ月ぶりの山、いきなり2450mから歩き始め、ということもあって、始めから少し息が切れた。しかし、足元を見るとチングルマ、ヨツバシオガマ、ミヤマキンバイなど夏の花がまだ残っていて、思わず顔がほころんでしまう。30分ほど斜面を登っていくと新室堂乗越についた。ここからは目指す奥大日岳の鋭角な姿が見えた。まだ雪も残っている。
奥大日への道は展望も開け快適そのもの。後ろを振り返れば室堂からせりあがる立山が見え、右手には剱の険しい山容が、雄雄しく天を突いている。進むにつれ微妙に姿を変えるのを飽きもせず写真に収めながら、徐々に高度を上げていった。暑さと、やはりいきなりの標高のためか若干朦朧となる。帽子を出してかぶる。
奥大日に着くころにはガスが上がって、剱は見えなくなっていた。後方、立山が少しと、目指す大日小屋への稜線を見ることができた。山頂で休んでいると関西訛りのオジサンが一人やってきた。会話しながら休憩。北アルプスでは関西人のほうが多い。たいてい最後は慣れるのだが、まだぎこちない。結果的にこのオジサンとは最後まで仲良くしてもらうことになるのだが...
後から来たグループと話しているオジサンをおいて先に出発。ガレた急斜面を降っていく。手を使うためストックはしまっておく。長いハシゴも現れ、慎重に通過する。傍らに、マツムシソウ、ダイモンジソウ、ハクサンイチゲなどを見る。標高にして200mほど降ったろうか、今度は中大日に向けての登り返し。その後、細かなアップダウンを経て、七福園へとついた。奇岩を見ながら進むと木道が現れて「小屋は近いぞ。そんなに急いでどこへ行く」という看板。これには一気に脱力させられた。すぐ先から見下ろすと今日の宿、大日小屋が見えた。赤い屋根の上では小屋番が布団を敷いて昼寝をしている。
大日小屋到着。受付を済まして(1泊2食9000円也)小屋のベンチでビール(500円也)を飲む。あー、うまい! と思っていると、さっき屋根の上で寝ていた小屋番の彼が隣でギターを弾き始めた。そう、ここはギターを聞かせてくれるランプの小屋なのだ。しばし聞き入りながら、酒に酔う。
その後、大日岳を往復した。ガスが上がってもう展望もないのだけど。15分ほどで着いた山頂には石積みの祠の中に仏様がおわすのでお参りしておく。持参のワンカップをちびちびとやった後、横になってうたたね。どのくらい眠ったのか、何か大事な夢を見た瞬間目が覚めた。それが何かは思い出せなかった。奥大日で会ったオジサンが登ってきたので軽く会話。小屋へ戻る途中では道々イワヒバリと戯れることができた。
夕飯までの間、小屋前で酒を飲み飲み、奥大日のオジサンとなかよくなり。おじさんは神戸から来て昨日は剱に登ったとのこと。仲間と別れて、一人大日小屋へ寄ったそうな。いろいろ山の話をしながら、五時半になって夕飯。おなかすいたー! 誰よりもお代りをして満腹になった後、六時半には床に入って眠りに就いた。相部屋の人は4人。静かなものだ。
21時にいったん眼が覚め外に出るとガス。次は1時、今度は満点の星空だった。オリオン、カシオペア、ペルセウス、ぎょしゃ座などが見える。都会ではけっして見えない天の川がぼうっと光っていた。日本海の方を見やると市街の明かりが瞬いていた。これは明日は晴れそうだ!
●2日目

五時前起床。小屋の外に出ると薄明の空に剱のシルエットが浮かび上がっていた。山の朝、ぞくぞくする瞬間だ。真正面に剱が見える。なんという贅沢だろうか。剱の向こうには後立山の峰々がはっきり見えている。刻々と空と山の色が変わっていく。小屋に泊まった人が続々と起き出し、口々に喝采をあげている。昨夜の夕食時はあまり会話もせずすぐに寝てしまったのだが、景色を見ながら皆さんといろいろ話すことが出来た。特に少年のような目をした富山の80の老人の話。富山の山屋は還暦になると馬場島から日帰りで剱往復にチャレンジするとのこと。60になって早月尾根を日帰りとは恐れ入るばかりだ。しかも8割方は成功しているらしい...!
小屋で朝食を食べ、再び外に出るとご来光の瞬間を迎えた。奥大日から現れた太陽が強烈な光を放っている。残念ながらここでは逆光となり、剣や後立山の見え方は、日の出前の姿のほうがしまって見えた。日の光を吸い込みながら、大気は早くも透明度を失い始めている。埼玉から来たという高齢の人が5時間かけて降る、と言いながら称名滝方面へと発って行った。晴れたので大日岳に登っていく人もいる。景色を見ているうちに、小屋には神戸のおじさんと私だけになってしまった。12時過ぎのバスに乗らないと、飛行機の時間に間に合わないので、称名滝に寄る時間も計算しながら、6時50分に小屋を出発した。
小屋を降ると左手に薬師岳の優雅な姿が見えてきた。赤い山肌は北薬師のものだろう。その左側にはどうやら鷲羽、水晶、赤牛あたりも見えているようだ。弥陀ヶ原の開けた景色の向こうに見える北アルプスの山々は、降りながらも心を愉快にさせてくれた。道は岩がちで朝露で滑るのでゆっくり降りていく。まだ早い時間なのに、夏の日はじりじりと肌を刺して、昨日からの日焼けが痛い。50分ほどで鏡岩下の水場到着。冷たい水をペットボトルに汲んで頭を洗うと実に爽快だった。飲んでみれば胃袋に染み渡るうまさ。山の水場は本当に生き返る思いだ。
何度か沢をまたぎながら、大日平へと降っていく。眼下の湿原の中に木道と小屋が見えている。途中で先に発った埼玉の人に追いついた。自分の歳によって歩みが遅いことをひとりごちている。若いころはきっと私よりもよほど速く歩いていたのだろう。私には慰めの言葉も思い浮かばない...
木道を進んで大日平へ出ると日差しがいっそう強く感じられた。リンドウ、ワレモコウ、イワショウブなどが花をつけている。大日平小屋で埼玉の人と軽く休憩。小屋の中をのぞくとサンドバックがぶら下がっている。大日小屋のギターといい、小屋に個性がある。ここで初めて下から人が上がってきた。
一足先に大日平小屋を出発。大日小屋の方を振り返ると夏山らしい力強さで、稜線がスカイラインを描いていた。北薬師もまだその頭をのぞかせている。30分ほど木道を行くと樹林帯となり、ここから急な降りが始まった。ロープやはしごなどがいくつも現れる。とはいうものの、慎重に降れば危険というほどのものではない。岩がちな道をどんどん降るがやはりトレーニング不足のせいか、足がガクガクしてきた。眼下には称名滝の展望台に人が動いているのが見える。登ってくる登山者とすれ違いながら、かなりコースタイムを縮めて、10時15分に称名滝への舗装路に出た。荷物を置いて、観光客に交じり称名滝の見物へと向かった。アスファルトの上で、ますます日差しが痛い。
称名滝はさすが日本一の落差を誇る見ごたえ。百メートル以上向こうの滝つぼから、水しぶきが飛んでくる。観光客も多い。展望台に上がって、滝音を聞きながらベンチで一服。高岡市から一人で観光に来たという自分と同年輩の人と会話する。今までは海ばっかりだったのだが、山に目覚めかけているとのこと。せっかく富山に住んでいるのだからと、室堂のよさや、訪れるコツをおせっかいすぎるほど説明しておいた。お返しに、阿佐ヶ谷にあるらしい富山の店と、お土産にイカの黒作りがおすすめ、ということを教えてもらった。
荷物のところに戻る途中で、神戸のオジサンとすれ違う。「早いねー」と言われる。汗を拭き着替えていると、富山80歳の御仁のパーティや埼玉の人も下山してきた。お互い下山を祝って会話した。そこから三々五々バス停へと向う。10分ほどで着いた駐車場にはトイレと休憩舎があった。頭を水道で洗って、クールダウンする。
バスは10分ほどで立山駅に到着。ビールと酒を買って、富山行の電車に乗り込んだ。ここでも神戸のオジサンと同席。酔っ払いながら、今回の山の楽しかったこと、ほかの山のいろいろな話などして、あっという間に富山駅に着いた。日焼けした肌を見て「都会っ子だね」と言われたのが印象に残った。JRの雷鳥で帰るというオジサンとは改札で旧来の友達のように挨拶をして別れた。
さて、今回の山行最後のイベント。バスで掛尾町にある回転寿司「すし玉」に向かった。ネットで調べたところ、富山は回転寿司でも十分うまいとのことだったので、空港の途中にあるこの店に寄ってみた。シロエビ、サンマ、イワシ、アジなど地物の魚が新鮮でおいしかった。酒も飲んで会計は2500円。東京では考えられない値段だった。いままで富山に来た時は市街は素通りだったのだが、こんなにうまいものがあるのなら、次の機会もできれば寄ってみたいと思う。それとちょうど八尾でやっていた「おわら風の盆」も気になったりもした...
タクシーで富山空港に移動。運転手の人も山好きらしく薬師岳の話で盛り上がる。空港のチェックインは携帯の2次元バーコードで。家で予約した際、半信半疑でダウンロードしてきたものが、ちゃんとつかえて一安心。しかし、搭乗便は前のフライトの遅れや、改札システムのトラブルやらで出発が40分遅れ。せっかく買ったイカの黒作りがどんどんあったまっていくのが気がかりだが...パイロットも見習いが配置されているのか、羽田へのランディングがえらく時間をかけた上に、かなり乱れた感じで怖かった...羽田から蒲田へはいつもの通り、京急バスでゆったりと帰ることができた。
今回の奥大日の山行。これ自体は大成功大満足だったのだが...心残りはやはり白馬のことだ。予報は雨+雷だったのだが、計画どおり実施していれば、実はその2泊3日は快晴だったのだ。しかし強雨直後の危険を避けた、という意味では、正しい選択だったのかもしれない...山の「行ってみなければわからない」難しさを改めて実感したのだった。

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