山に行こう 山行記録 白根三山

白根三山 北岳/間ノ岳/農鳥岳

北岳(標高3192m・山梨県)
中白根(標高3055m・山梨県)
間ノ岳(標高3189m・山梨県/静岡県)
西農鳥岳(標高3051m・山梨県/静岡県)
農鳥岳(標高3026m・山梨県/静岡県)

2002年8月6日(火) 晴れ〜8月7日(水)晴れ〜8月8日(木)晴れ
テント2泊 単独行
幕営地:北岳肩ノ小屋(8/6)、大門沢小屋(8/7)

●写真

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●交通

往路JR蒲田4:33 − 東神奈川4:48
東神奈川4:54 − 八王子5:48
八王子5:49 − 高尾5:57
高尾6:15 − 甲府7:44
山梨交通バス甲府駅8:00 − 大樺沢出合9:54

復路山交タクシーバス奈良田9:25 − 身延駅10:59
JR身延11:29 − 富士12:48
富士13:34 − 三島14:01
三島14:15 − 熱海14:28
熱海14:37 − 川崎16:06
川崎16:09 − 蒲田16:15

●山行

1日目(歩行時間5:13)
広河原10:08-二股12:34-休憩11分-二股発12:45-小太郎尾根分岐14:52-北岳肩ノ小屋15:32
2日目(歩行時間8:07)
北岳肩ノ小屋発4:42-北岳5:17-休憩23分-北岳発5:40-北岳山荘6:26-休憩50分-北岳山荘発7:16-中白根7:49-休憩11分-中白根発8:00-間ノ岳8:58-休憩32分-間ノ岳発9:30-農鳥小屋10:26-休憩43分-農鳥小屋発11:09-西農鳥岳11:46-休憩17分-西農鳥岳発12:03-農鳥岳12:42-休憩40分-農鳥岳発13:22-大門沢下降点13:58-大門沢小屋16:25
3日目(歩行時間2:08)
大門沢小屋発5:00-奈良田第一発電所6:47-奈良田7:08

●記録文

●1日目

夏山第3弾はかねてよりトライしてみたかった2泊3日のテント山行を実施することに決定。山梨静岡辺りが思いっきり晴れそうなので、日本第2位の高峰・北岳3192mを皮切りに、南アルプスの3000m峰5座を踏破する白根三山縦走のコースを歩くことにした。赤岳・阿弥陀岳の1泊2日から中2日での山行だけど休養充分でコンディションはいい。
広河原までは鳳凰山のときと同じ連絡で。甲府からのバスには8名乗車。車窓越しに夏の日差しがかなりきつい。予報どおりの晴れ方だ。夜叉神トンネルを抜けた辺りで左手に白根三山を全て望見できる場所があり、2泊3日で歩きとおす稜線が晴れ渡った空に荒々しいスカイラインを描き出していた。
大樺沢出合で下車。広河原アルペンプラザをちょっとのぞくと、ウェストン北岳登頂100年・南アルプス林道開通40年だとかで、南アルプス黎明展なる展示が催されていた。同売店には簡単な食料やガスカートリッジなどが販売されていた。
さすような夏の日差しの中、広河原を出発。北沢峠方面へゲートをくぐり、左手のつり橋を渡る。大樺沢の向こうに北岳の三角形が立ち上がっている。沢にはまだ雪渓が残っているのが見えるけれど先週鳳凰山から見たときよりはかなり小さくなっている気がする。つり橋を渡ると広河原山荘があって、ここで登山届を記入してから入山した。
二股までの登りは大樺沢沿いで、登山道が小川になっているような箇所が多い。河原沿いなので日陰が少なく、夏の日差しをもろに受けて体力の消耗が激しい。だらだら汗をかくし、一歩一歩がどうしても緩慢になってしまう。これを避けるには早朝発を心がけるしかないのだけど、そうすると東京を前夜発になるのでそれもまたどうかと思うし...このへんはトレードオフして決めるしかない。まー、今日は雷は出ないという予報なのでゆっくりいけばいいや(2−3日前塩見岳で雷に打たれて死人が出たようだけど)。歩くたび振り返ると鳳凰山の白砂の稜線が徐々に目線の高さに近づいてきて励みになる。
大樺沢を一度左に渡り、今度は右に渡って雪渓の名残を見ながら河原沿いを登ると二股に到着した。大体コースタイムどおり。辺りは夏の花も終盤を迎えて、シシウドが大量に頭をもたげていた。ここでカレーパンを食して補給。向こうには雪渓の雪解け水でラーメンを作っている若者集団がいる。はっきり言ってこの時期の雪渓は泥だらけなのだけど、試したくなる気持ちはわからないでもない。
二股は白根御池小屋、八本歯ノコルから北岳山荘、北岳肩ノ小屋への分岐点で、今日は右股コース・肩ノ小屋方面へと進む。八本歯ノコルに向かう大樺沢の上部を見るとかなり小さくなった雪渓が残っていた。右股コースはなかなかの急登。立ち止まるとやっと涼しい程度で、だらだら汗をかきながら登る。地道に高度を稼ぐしかないのだけど、道端にはシナノキンバイをはじめ、おなじみのソバナ・ツリガネニンジン・マルバダケブキ・ホソバトリカブトなどなどが咲いていてなごむ。ただしこの辺り、ハエが大量発生しており、休憩するとたかられるのでうっとおしい。
2箇所ほどお花畑になった平地を過ぎるとやがて森林限界になった。右手から白根御池小屋に降る道を合わせて、小太郎尾根分岐に到着。一気に展望が開けてハイマツの向こうに甲斐駒・仙丈をセットで眺めることが出来た。甲斐駒から次々と雲が湧き上がっては東へ流れていくさまがすごい。夏のこの時間までこの展望を得ることが出来るとは運がいい。明日もこの調子でいてくれることを願いつつ、岩稜を肩ノ小屋へと進む。足元にはチシマギキョウが紫色の花をつけている。
肩ノ小屋到着。サイトに荷物をデポし、もう少し登って受付を済ませる(幕営料400円也)。ついでにビールも一缶(500円也)。小屋下のテントサイトはすでに十数張。荷物をデポした位置は小屋から少し離れて下った場所だけど、ここに張れば喧騒は避けられそう。ただし、トイレや水場が遠く少し不便かも。とはいえ戻ってビールを開けてしまったのでもう移動する気もなく、しばらく放心して景色を眺める。甲斐駒・仙丈・鳳凰山そして小屋の向こうに北岳の岩峰といくら見つめても見飽きない景色が広がっている。
気分よくビールを空けた後設営。一度小屋まであがってから、100m下の水場まで水を汲みに降りる。水は小屋から1リットル100円で買うことも出来るけど時間もあるし汲みに降りてみた。ところがこの標高100mが意外に遠くて水を汲んでいる人がはるか下に見える。ちょっと後悔しつつも冷水のうまさを期待して降りてみる。辺りはクルマユリやらなんやらの大お花畑になっている。
水場についてみるとこれがまたちょろちょろな出具合で、1リットル汲むのに2−3分かかるような調子。同じようにここまで降りてきた人と不平を言いながら順番を待つが、その不平をたれる顔も何故だか笑顔になっている。まー、こんな高所に水が湧いていること自体あり難いことなんだ。その水がうまくて、せっかく汲んだばかりの中身を、一気に飲み干してしまった。
サイトに戻って5時過ぎ。夕食はカレーと味噌煮込みうどん。当然インスタントだけどうまい。持参の日本酒も飲み干して満腹感に浸り始めるころ風とガスが出始めて辺りが暗くなってきた。夕暮れの山並みを期待していたのだけど今日はここまで。テントに入って就寝と相成った。夜中はどんどん風が強くなってたたきつけるような風でテントが飛ばされないか心配になる。夜半には雷光らしき光も時折走って、なにやら荒れそうな予感。朝まで風は強まる一方で、不安で寝付けない夜を過ごした。明日は晴れるのだろうか...?
●2日目

朝まで風が収まらず、かなり弱気になって、4時前にテントから顔を出してみると鳳凰山の向こうが赤く染まり始めている。空を見上げれば星星が輝いている。快晴だ。戦慄のような感動とともにやる気がわいてくる。まだ夜だけど、ごそごそと撤収を始める。朝飯は北岳山荘まで歩いてから食べればいい。刻々と変わる朝の景色を見逃したくない。強風に飛ばされないようテント内に石を入れたりして、難儀しつつも撤収完了。肩ノ小屋前に上がると、小屋泊の人が大勢ベンチの前に並んでご来光を待っている。カメラの砲列もしかれた。朝の濃淡のある色合いと東から射す赤光の中に、甲斐駒・仙丈・富士山・八ヶ岳・中央アルプスなどがぼうっと浮かび上がっている。日の出が近づくにつれそれらが秒刻みで微妙に色合いを確かなものにしていく。
小屋の左手から北岳への登りにかかる。徐々に克明になってくる景色を振り返りながら岩を攀じていく。強風や重荷も苦にならない。途中いよいよというところで荷をおろしてご来光の瞬間を眺める。少し横長な太陽とそれが雲に写像したオレンジ色の光が目に焼きついた。
北岳北峰を乗り越えて本峰到着。辺りはすっかり明るくなって、東側からの陽光が山並みに強いコントラストを与えていた。南方を見ればいままで北岳の陰に隠れていた間ノ岳・塩見岳が折り重なるように横たわっている。今日縦走する農鳥岳までの稜線が彼方に連なって見える。北方には相変わらず甲斐駒・仙丈が、東には鳳凰山の峰がシルエットになって、まさに南アルプスの最高峰3192mに立ったことを実感させられた。北アルプス辺りは雲が湧いていて眺めることは出来なかったが、中央アルプス・木曽御岳山・乗鞍岳・八ヶ岳・富士山など日本の高峰の数々を手にとるように眺めることが出来た。なにしろ富士山以外ここより高いところは日本に存在しないのだから。
まだそれほど人の多くない山頂を後にし北岳山荘へと降る。今日はこれから大門沢小屋まで9時間の道のり。ゆっくりしたいところだけどそうも言ってられない。それにこの青空にこの先のすばらしい展望も保証されたようなもの。まだまだ楽しみはこれからだ。唯一気になるのは西の谷底から吹き付ける強風で冷たいのは我慢すればいいけれども、岩稜でバランスを崩さないように気をつけて歩かないといけなかった。この辺りはまた高山植物が咲き乱れ、山行に彩りを添えてくれる。
北岳山荘到着。肩ノ小屋と違って頑丈で立派な小屋だ。トイレを借りると鉄扉の水洗式でペーパーも完備。人感知センサーがあって自動的に流れる仕組みになっていてオドロキ。小屋付近には遅い出発の人がまだうろうろしている。北岳からのくだりですれ違った人数からすると昨夜はまあまあの混雑くらいだったのではないだろうか? 朝食がまだだったので小屋で1リットル百円の水を購い、風のこない陰に隠れてかに雑炊を食した。ベンチの正面には富士山が見える好ロケーション。ここにテントを張るのもなかなかよさそうだ。小屋付近にいる間山荘のヘリが何回も麓と往復していた。これだけの荷物を運搬しないことには、夏山の人出を支えきれないということか...小屋のアルバイトの数もかなり多そうだった。
北岳山荘を後にし間ノ岳へ向かう。前方に横たわる間ノ岳への稜線は膨大な山容。ハイマツが増え、北岳付近よりは高山植物が減る。ゆるいのぼりがしばらく続き中白根到着。この峰からは北岳と間ノ岳を間近に望むことが出来た。こちら側からの北岳は美しい三角形を描いていた。中央アルプスにもいい具合に光が当たって、鮮明に山脈が見えていた。
間ノ岳へと更に3000mの稜線を進む。一度降って再びなだらかに登り返していく。付近には終わりかけながら、チングルマやミヤマダイコンソウが咲いていた。中白根から1時間ほどで間ノ岳到着。こちらは3189m日本第4位の高峰だ。空も快晴だし全く贅沢な稜線歩きだ。山頂からの眺めは相変わらず絶景で、特に北方に北岳、仙丈岳、甲斐駒ケ岳、八ヶ岳の順で順々に折り重なって見える様は感動だった。だだっ広い山頂からは塩見岳の向こうに新たに荒川岳が見えてきた。これから歩く農鳥岳への稜線も手にとるように見える。富士山の三角錐もまだくっきりしていてこの時期にしては珍しい。ここまで来ると北岳よりは人が減る。北岳山荘から軽装で往復するだけの人もいる。学生集団が何グループかいて、凹地になっているところでいまどき全員で放歌していた。
間ノ岳からは石積みの降り。この辺りは農鳥小屋の支配下なのかやたらペンキ印が目立つ。ガスった時などは安心なのだろうけど。ガラガラと大小の石が積み重なる中を降っていく。この辺に高山植物はほとんどない。ところどころハイマツがあるだけで乾燥した景色が続く。1時間ほどで農鳥小屋に着いた。振り返ると間ノ岳が視界からはみ出しそうな大きさで横たわっている。荒れた岩山で緑が少ない。西側には眼下に熊の平小屋が見えて、南方に連なって塩見岳がある。仙塩尾根も一度歩いてみたいものだ。
農鳥小屋はネットでの評判をいろいろ見ていたけど、やはり一種異様な雰囲気。細かい道標や指示がペンキでそここに書かれているのもすごいし、便所だけでなく小屋前の白濁した桶の水が腐って異様なにおいとともにハエが大発生しているのもすごかった。こんなところにはちょっと泊まりたくないが...テン場はそこそこの混雑。幕営者に水場を聞くと往復30分らしいので、仕方なくハエのたかる農鳥小屋の蛇口から水を買った(1リットル百円也)。買った水を沸かして風の当たらないところでラーメンを作って食べた。
最後の3000m峰、農鳥岳に向かう。まずは西農鳥岳へ。なかなか急な岩稜を登る。昼飯を食べて休憩したので、そこそこのピッチで西農鳥岳到着。歩いてきた間ノ岳の向こうに北岳、仙丈岳が顔を出している。塩見岳、荒川岳もぐっと近づいた。農鳥岳本峰が平たい山頂を南側に連ねていた。この辺りからまた高山植物をいくらか散見できるようになった。
縦走最後の稜線を農鳥岳本峰へと向かう。西農鳥からの見た目より激しいアップダウンが続く。昼飯のエネルギーも切れて足のほうも少し苦しい。ついた農鳥岳は小さな山頂で、ここが今回最後の大展望になる。南アルプスの広大な眺めともこれでお別れだ。十分景色を楽しむ。後は降りだけなので山を眺めながらウィスキーを飲んだ。はらわたに染み渡るうまさだった。ここであった人の話によると昨夜の肩ノ小屋は大混雑で一人40センチ幅の寝床とのことだった。
下山。まずは大門沢下降点まで荒涼として広い岩場の中を降っていく。今まで見た花のほかにウサギギクという一本立ちした花が咲いていて可憐だった。雪山の遭難者の遺族が設置した鐘のある地点が下降点。ここを見逃して遭難したという。わざわざ下降点と名がついているのはそのためだろうか? 
大門沢小屋への急なくだりが始まる。はじめはハイマツ帯で、やがて道は樹林の中へ。段差があって疲れた足にはこたえる道だ。いつのまにかあたりは針葉樹林に変わって、沢の音が聞こえ始める。左手に一筋の長い滝が現れて大門沢に合流。足も疲れたので出来るだけ休みを取りながら降っていく。
大門沢小屋到着。稜線の小屋とは違ってなんとなく下界臭い小屋。どうも小屋番の印象もイマイチ。こんなことなら農鳥小屋に幕営して明日午後に下山してもよかったかも、と現金なことを考える。まぁ、仕方ないので幕営料金を支払って(500円也)ビールを買って(500円也)サイトに入る。雑草の多いサイト。すでに7-8張のテントがある。10数張は何とかいけそうな感じ。いいところは沢があるので水が豊富なところか。500円払えばシャワーまで浴びられる。夕飯はマーボ春雨。3人前の脂っこい食事がするっと胃袋に収まった。
●3日目

翌朝は4時起床。アンパンだけかじって撤収し、5時に下山開始。9:25奈良田発のバスを目指す。出来れば奈良田の里温泉に浸かって帰るつもり。営業は9:00からとあるが、なんとなくもう少し早く始まるような根拠のない予感がする。多少のアップダウンを繰り返して河原沿いの道を進む。何箇所か木橋や木の梯子をわたる箇所があった。途中猿の群れががさがさと木の上を移動していった。そのうち突然吊橋が現れてこれを慎重にわたる。沢まで十数メートルの高さ、長さは30mくらいあるだろうか。特に中央部がたわんで揺れるのでスリルがある。同様の吊橋を3つ渡って道は林道になった。奈良田第一発電所まで進んで南アルプス街道と合流。ここから30分弱の車道歩きで奈良田に到着した。
コースタイムでは3:30の行程のはずの大門沢からのルートだったが2時間ちょっとで奈良田まで到着してしまった。当然まだ温泉も開いているはずもなくぼうっとしていると、途中で抜かしたおじさんも到着した。この人と連れ立って奈良田温泉まで上がって山の話などしながら開館を待った。近隣の宿の人の話によると開館は8:30とのことだった。
かなり待って温泉に入ることが出来た。ぬるぬるする泉質の温泉で、ひさびさにまともな温泉に入った気がした。2泊3日の汗を洗い流してさっぱりした後ビールを購入。バス停で朝っぱらから酔い酔いとなる。バスは若干の空席を残して出発。ウィスキーを飲みつつ心地よい眠りをむさぼりながら身延駅到着。駅前はいくつもみやげ物屋があって、ここで帰りに飲むワインと100円(!)のぶどうをお土産に購入。身延駅から5時間の長い帰路に着いた。

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