山に行こう 山行記録 薬師岳〜五色が原

薬師岳〜五色が原

薬師岳(標高2926m・富山県)

2007年8月24日(金) 晴れ〜2007年8月25日(土) 晴れ〜2007年8月26日(日) 晴れ〜2007年8月27日(月)曇り時々 晴れ

幕営地:
 8/24 薬師峠(太郎兵衛平)
 8/25 スゴ乗越
 8/26 五色ヶ原

●ワンポイント

薬師岳は本当に大きな山でした。縦走する楽しみがこのコースにはあると思います。そして、ずっと赤牛岳が真近に見えていました。山頂から広がるカールの眺めと北アルプスの大展望もすばらしかったです。五色ヶ原のテント場はお花畑のど真ん中。シーズンに行けば最高の景色になると思います。そしてコース中のどのテント場も水が豊富でおいしいです。

●写真

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●交通

往路JR蒲田21:54 − 品川22:01
品川22:07 − 池袋22:30
富山地鉄バス池袋23:05 − 富山駅5:25
富山地鉄富山5:45 − 有峰口6:23
富山地鉄バス有峰口7:25 − 折立8:18

復路立山黒部アルペンルート室堂11:00 − 扇沢13:18
さわやか信州号扇沢15:45 − 新宿駅20:25
JR新宿20:33 − 神田20:44
神田20:48 − 蒲田21:12

●山行

8/24(歩行時間3:35)
折立8:22-三角点9:38-休憩12分-三角点発9:50-途中休憩25分-太郎平小屋12:15-休憩82分-太郎平小屋発13:37-薬師峠13:56
8/25(歩行時間4:54)
薬師峠5:10-薬師平5:49-薬師岳山荘6:35-休憩15分-薬師岳山荘発6:50-薬師岳7:40-休憩140分-薬師岳発10:00-北薬師岳10:50-休憩20分-北薬師岳発11:10-途中休憩5分-間山12:25-休憩10分-間山発12:35-スゴ乗越小屋13:14
8/26(歩行時間4:44)
スゴ乗越小屋5:34-スゴ乗越6:10-スゴノ頭6:55-休憩5分-スゴノ頭発7:00-途中休憩5分-越中沢岳8:15-休憩42分-越中沢岳発8:57-鳶岳10:25-休憩35分-鳶岳発11:00-五色ヶ原山荘11:35-休憩5分-五色ヶ原山荘発11:40-五色ヶ原キャンプサイト11:50
8/27(歩行時間3:42)
五色が原キャンプサイト5:03-ザラ峠5:36-途中休憩5分-獅子岳発6:45-休憩5分-獅子岳発6:50-龍王岳8:06-休憩50分-龍王岳発8:56-室堂9:45

●記録文

2007年の夏の山行は南アルプス南部と決めていたのだけど、せっかく畑薙ダムのほうまで行くのなら、最低でも4泊はしたいところ。ところがいろいろあって、今年は3泊が限界となってしまい、それならばと計画を変更して、北アルプスの薬師岳縦走に出かけることにした。薬師岳は4年前黒部五郎〜鷲羽〜笠の縦走をしたときから気になっていた山。ちょうど3泊ならゆっくり歩けるし、富山の天気もよさそうなので、3日前の月曜に決断して、往きと帰りの高速バスを予約した。往きは富山地鉄の東京池袋線で、夜11時過ぎに池袋発。帰りは室堂からアルペンルートを抜けて、扇沢からさわやか信州号で帰るというプランになった。
木曜夜9時過ぎに家を出て池袋へ。酔客でごった返す中、東口に出て高速バスの発着所でバスの到着を待つ。今夜の富山行きのバスは2台。1号車は3列シートでゆったり座れるのだが、ぎりぎりの予約だったので、今回は2号車(4列シート)の最後部の席になった。しかし、さわやか信州号のバスよりも座席は広く、リクライニングもかなり効くので、思いのほか快適に眠ることができた。富山まで7340円。折立への交通料金(3390円)をプラスして考えても、さわやか信州号より安いのでこちらのほうがお得かもしれない。乗客のうち登山者は2割程度だった。
●1日目

5時半前に富山到着。今シーズンの折立直通のバスは終わっており、電車で有峰口へと移動する。有峰口の駅はローカルな駅で、補給できるような店は何もない。ここで1時間ほどバスを待ち、あとからついた電車の乗客をあわせて、折立行きの車はほぼ満員となって発車した。聞けば、昨日は大雨で折立までの林道が不通となっていたらしい。一日違いで、危うくプラン変更となってしまうところだった。林道はところどころ崖崩れも起きており、事前の調査は不可欠だと思った。
折立到着。自家用車も多くとまっている。ここには休憩所とトイレがある(=しかない!)。軽くトイレを済ませ、出発。しばらくは樹林帯の登りが続く。前回来た時は(寝不足のせいで?)あまり急な箇所があったのを覚えていなかったのだが、意外と足を持ち上げないといけない箇所が多かった。途中、あられちゃんやドラえもんの看板があるので、山看板の一種として撮影しておく。入山者は多くもなく少なくもなく、適度なにぎやかさ。今回の荷は自宅出発時18K程度と、前回4泊で来たときより4Kも少ない。不要な荷を減らす技術が身についたということだろう。
三角点に着くと一気に展望が開ける(と同時に日差しをもろに浴びながらの行軍となる)。前方には目指す薬師の支尾根の一部(本峰ではない!)、遠方には剱の鋭鋒や、雄山が見える。ここからは若干の降りを除けば、太郎平小屋まで緩やかな登りが続く。道も広く整備されていて歩きやすい。あまり帽子は好きではないのだけど、高山の紫外線は半端ではないので、今日は帽子をかぶって歩く。一日目なので、とりあえず日焼け止めは塗らないでおいた。
このあたり前回来た時は、ニッコウキスゲやチングルマが最盛期を迎えていたが、さすがに時期が遅いらしく目立つ花はほとんどなかった。チングルマの風車になったのが大量に続いているのがかえって印象的だった。途中ところどころにあるベンチで休憩。年配の一団と会話し、テント泊まりの荷が珍しいのか、私の荷を担いで「これじゃ100mもあるけないや」などと言われたりした。
太郎平小屋到着。ここで、一気に北アルプスの大展望が開けた。水晶、鷲羽、黒部五郎など、黒部源流を取り囲む山がぐるりと見える。4年前の縦走の思い出がよみがえってきて、しずかな感動が湧いてくる。そして前方には、いつか行ってみたい雲ノ平、左手には薬師の前山の白い稜線が見えている。ここまで来てもまだ薬師本峰は姿をあらわさず、その巨体を思い知らされる。かなり早めに到着したので、小屋で買ったビールを飲みながら1時間半ほど休憩。ベンチに同席した鹿児島からの人や、関西の人と会話する。この間、気づかぬ間に腕や耳がすっかり日焼けしてしまって、痛みを感じるくらいになってしまった。
木道をたどり薬師峠のテン場に移動。途中、今まで見えなかった、槍の穂先が見えた。ちょっと場所を変えるだけで、見える山がずいぶん変わるものだ。そして太郎兵衛平のテント場に到着し設営。初め張ろうとした場所が小便くさかったので、前回張った場所の近くに張ることにした。日差しを避けて樺の下で酒を飲み、黒部五郎を眺めながらゆっくりすごした。近くに張っていた単独の人が声をかけてきて、いろいろ情報交換した(まったく関係ないが、この人の話では北海道の雨龍沼湿原はよいところらしい)。本日の夕飯は麻婆春雨。初日からというのはちょっと躊躇いがあったのだけど、炊いた米をブチ込んで食べたら、3人前があっという間になくなった。この日は夜行の寝不足もあって17時過ぎに泥のような眠りに入っていった。
ちなみに太郎兵衛平の水場は量も豊富でうまい。トイレもキレイだ。この日は10数張程度でガラガラだったが、テン場の受付の兄さんに聞いたところ、お盆のときは百数十張りで足の踏み場もなかったらしい...
●2日目

4時過ぎ起床。前日の残り米を梅干茶漬けにして食べた。撤収し黒部五郎を見ると山頂付近に雲がかかりかけていた。これは今日の天気はどうだろうか? パターンとしては、このまま余計曇ってくる場合と、日が上がってきて晴れる場合とありそうだ。出掛けの予報では後者の可能性が高いとみて、日の出前、5時過ぎに出発した。
薬師峠からの道は、沢沿いのゴロ石が重なった急登で始まる。寝ぼけた体で、ぜいぜいいいながら高度を上げて行った。途中雪渓の融けた箇所に、チングルマを見ることができた。昨日、太郎平の小屋前で会話した鹿児島の人が、薬師岳山荘から降ってくるのとすれ違い会話した。登りつめるとやがて木道が現れ、ケルンのある箇所に出た。ここから森林限界となり右手に、稜線を見ながらの登りとなる。途中すれ違った人に、その稜線のどこが薬師の山頂かと尋ねると、そこは薬師本峰の稜線ではなく、東南稜だということを教えてもらった。本当に懐の大きな山だ。おりしもその東南稜からまぶしいくらいの太陽が顔を出し、晴れの予感が高まった。左手には、高山植物の名残があって、ハクサンイチゲやアオノツガザクラ、コイワカガミなどを楽しむことができた。ここでこの後の日差しに備えて日焼け止めを腕首顔耳に塗っておく。
稜線に出ると急に日本海側からの風が強くなった。かなり寒い。薬師岳山荘でトイレ(建物内に有)を借りた後(200円也)、小屋前で大阪の人と会話。室堂までの道が結構アップダウンが多いという話を聞いた。またストックの役に立たない岩場もあるということらしい。ここから先、Tシャツではあきらかに寒いので、長袖を着て行くことにした。前方、ひとつこぶを越えた向こうに祠のある薬師岳山頂が見えている。振り返ると、雲はどんどん取れているようで、黒部五郎や槍が逆光の中にくっきり黒く浮かんで見えた。こうした場面は、山を登っていてわくわくする瞬間のひとつだ。
左手から寒風を受けながら、50分ほど登って7:40に薬師岳到着。テン場出発から2時間半、思ったより短時間で山頂に着いた。北アルプス付近の雲はすっかり晴れて、展望は最高。槍穂、鷲羽、水晶、そして赤牛岳の巨体、裏銀座の山々、烏帽子岳、針ノ木岳、鹿島槍、五龍、白馬岳につらなる後立山の山々、剱岳、別山、立山、遠方に乗鞍、御嶽山、浅間山、そして富士山などいくら数えてもきりのないくらいの山が見える。特に眼前の赤牛岳はいつか登ってみたい、大きな山だ。そして眼下には雄大なカールが黒部川へと広がっていて、迫力のある眺め。その中には、まだ大きな残雪を置いているのが見えた。今日はスゴ乗越に幕営の予定。急ぐ必要もなく、山座同定、そして登頂者との会話を楽しみながら、2時間強の山頂滞在となってしまった。もちろん、山頂の薬師如来にも親しくお参り...
去りがたくも、10時に山頂を出発。日本海側からの風はいつしか止んで、じりじりと肌を焦がす日差しが降り注いでいる。日焼け止めを塗りなおしておく。北薬師へは、巨石を伝っていく尾根道。細かなアップダウンが続いた。高度の上がった山頂滞在で体力を消耗したのか、あるいは気温が上がったためか、意外としんどく感じた。すれ違う登山者の顔も、疲労にゆがんでいる。しかしふと立ち止まって右手を見れば、金作谷カールの深く落ち込んだ眺めがすばらしい。また、稜線直下にも巨大な残雪が残っていた。
ちょいとふらふらしながら一時間弱で北薬師到着。北薬師も薬師本峰に負けず劣らずの眺望。目指す室堂、その向こうにある剱が少しずつ近づいてくる。そして、ここからカール越しに眺める薬師本峰は心に残る(ここを歩いたのだという)眺めだった。赤牛岳へ至る読売新道の長大な尾根も真正面に見えた。
北薬師から間山までの降りにかかる。途中、狭隘となった地形で最近まで残雪があったのだろう、チングルマやハクサンイチゲ、ミヤマダイコンソウ、ミヤマキンポウゲ、ヨツバシオガマ、ウサギギクなどが残っていて、気持ちも癒された(かとおもうと、岩の間からトウヤクリンドウ、タテヤマリンドウなども顔を出していたりした)。正面に雄山と剱、右手に赤牛岳を伴ってどんどん下降。北薬師から1時間強で、池塘のある間山に到着した。ここからの展望もかなりよい。眼下に、黒部川の緑色の流れが見えた。明日登る予定のスゴノ頭、越中沢岳のアップダウンが結構きつそうなのが見て取れた。
間山からしばらく降ると、樹林の中に目指すスゴ乗越小屋の赤い屋根が見えた。この辺りの下降で、いつのまにかできた足の豆がかなり痛み出した。やはりトレーニング不足で、足裏がなまっていたのだろう。しかも、小屋手前のなんでもない平坦な道で、クセになっている左足首を捻挫してしまった。思わずうめくほどの激痛。この足は中学生のときに痛めて以来、完全にゆるくなっていてちょっと油断すると、すぐにがくっと曲がってしまう。ある意味慣れてはいるので、程度を確認しながら小屋まで進んだ。果たして明日はどうか?
小屋で幕営の手続きをし、ビールと日本酒を購入(ちなみに今回酒はジンを500mlのみ携行。度数の薄いヤツは現地調達の計画)。テン場はスゴ乗越方面に1-2分行ったところ。20張程度可能な広さで、赤牛岳や烏帽子岳の展望がよかった。トイレは小屋外のを利用。水も小屋前の蛇口からだったが、これは甘くておいしい(なぜか心に残る)水だった。この日の夕飯は鮭缶。炊いた米に芯が残ってしまい、ちょいと悲しかった。幕営者は私のほかに千葉から来たと言う単独の若者一人(雷鳥沢から歩いてきたらしい。おつかれさま)。静かな一夜を過ごすことができた。夜半に、左足を動かしてみるとやはり痛い。しかし、我慢できないほどではないだろう。多分。
●3日目

3日目の朝も快晴。美しい朝焼けだった。正面の稜線に烏帽子小屋の明かりが見えた。出発前に、まめのできた箇所にバンドエイドを張っておく。雷鳥沢から来た若者が、朝焼けだから天気崩れるかも、というが、果たしてどうか? 5時半テン場出発。軽装の単独行が鈴を鳴らしながら先行して行ったあとをついていく。しかしこの単独行、足が速くこのあと追いつくことはなかった。スゴ乗越までの間に、薄汚れて顔色の悪いおばさん一人とすれ違う。五色からくるには時間もまだ早いし、ビバークでもしたのだろうか? 無事を祈る。
スゴ乗越までの間はところどころ小さな草原状の御花畑(の終わったあと)があった。もう少し早く来れば花を堪能できたのに、と思って歩いていると、ニッコウキスゲの群落があった。まだつぼみもついていたので今年はずいぶん遅咲きなのだろう。スゴ乗越からは正面に赤牛岳が見えた。ここまで、左足首の痛みを感じながらも、徐々にこなれてきて、問題なく歩けるようになった。
スゴ乗越からスゴノ頭までは急登の連続。登山道の下部は樹林の中だが、ところどころ展望が開けると、昨日登った薬師が朝日を浴びて美しい。薬師本峰の白と間山辺りの赤のコントラストがなんとも言えないまとまりを見せている。さらに登って行くと、スゴノ頭上部の道は、岩場となった。落ちればただではすまないような箇所もあるので、ペンキをたどりながら慎重に進んだ(ここを降りにとるのは神経を使うかもしれない)。傾斜がゆるくなって、スゴノ頭直下のハイマツに囲まれた台地に着いた。展望はいい。ここから再び100m強降って、越中沢岳へは300mの標高差を登り返すことになる。眼前にその急登が見えており、昨日の雷鳥沢の若者が「なんだこのアップダウンは、と思いました」と言っていたのを思いだした。
コルまで降り、太陽も高度を上げてきて、汗が噴出す中、ザレた急斜面を登っていく。この辺りで五色ヶ原を出てきた登山者とすれ違うようになって、越中沢岳まで行ってしまえば、後のアップダウンはたいしたことはないと言われる。一度コブのような箇所を越え、いったん降ってまた登り返し。1時間強で、ようやく山頂の一角に出た。3日目ということもあって、足を結構使ってしまった。
ゆるく登った先が越中沢岳山頂。ここからの展望もすばらしく、北アルプスのかなりの山々を眺望することができた。特に、剱、立山がぐっと近づいた感があった。またその手前、鳶山の向こうには目指す五色ヶ原と山荘の赤い建物が見えた。五色ヶ原は昨日の若者の言うとおり遠目にも確かに雰囲気のよさそうなところだった。しかし、明日の一ノ越までのアップダウンも、それなりにありそうに見えた。
山頂には数人の人が休んでいた。60過ぎの男性で、大日岳から笠ヶ岳まで、テントと小屋併用で8泊するという人には感心した。愛知から来たと言う40過ぎのご夫婦とも楽しく会話した。空を見ると、高層にうす雲が出ており、3日間続いた快晴も明日以降はどうなるか怪しい気がした。展望を楽しみ、薬師岳を目に焼き付けて、越中沢岳を跡にした。
越中沢乗越まではさくさくと快適な降り。荷物が減って軽くなっているせいもあるだろう。たいしたことないと言われた鳶岳への登り返しは、足をだいぶ使ったせいか結構きつかった。山頂手前で長靴で空身の若者とすれ違った。小屋の人だろう。鳶岳山頂直下はお花畑で、ハクサンフウロ、トリカブト、イワツメクサ、コゴメクサ、ヨツバシオガマ、ウメバチソウ、オトギリソウなどまだまだ楽しむことができた。
山頂では、戻ってきた先ほどの(五色ヶ原山荘の)バイトさんとしばし会話。お客もおらず暇になったので散歩に出てきたのだそうだ。やはりお盆を過ぎて客足はがくっと減ったとのこと。今年は残雪が多く、花の時期は遅かったそうだ。この先混むのは9月の連休くらいで、あとは冬じまいとなるらしい。こちらからは、富山地鉄の高速バスの情報を提供。それは安いですね、ということになった。学生時代山岳部だったという彼とは、その他山々の話をして楽しく過ごすことができた。ちなみにテン泊の人は、小屋の風呂は利用できないとのこと。
バイトさんは一足先に五色ヶ原山荘に戻ったので、鳶岳でこの日最後の展望を堪能。この山の展望も思いのほかよい。薬師、笠、赤牛、槍、剱、立山、後立山とぐるりと見渡すことができ、眼下には緑色に染まった五色ヶ原が広がっていた。その中に点々とある池塘群も美しい。
鳶山からは木道を下降。ここは最盛期ならすばらしいお花畑になるのだろうと思う。その名残(といいつつかなりの花が残っていたけど)を見ながら五色ヶ原山荘へ。受付で先ほどのバイトさんにテン場の手続きをしてもらう。ビールと日本酒を購入し、10分ほどお花畑の中を歩いて今夜の宿、五色ヶ原の幕場についた。お花畑の一角が広いテン場になっている。実に贅沢な空間、そこに一人テントを張った。トイレも近くにあるし、雪渓の水もおいしかった。3日目なので、冷たい水で頭をあらわせてもらった。
まだ12時過ぎなのだけど、ゆるゆると酒を飲み始める。正面には針ノ木岳、赤沢岳がでっかく見える。この山も、いつか登ってみたい山リストに加わった。むしろ優先順位は高いかもしれない。そして、花の写真を撮ったりして、時間をすごす。傍らにあるベンチに座っていると、刺すような日差しが肌を焼く。長袖をかぶって、それを凌いでいると、関西の人が小屋から散歩に来たのでしばし会話する。その間に明日登る獅子岳のハシゴの辺りから、ヘリコプターで人が二人吊り上げられるのを見た。その後、平ノ小屋のほうへと道が伸びているので、暇つぶしに少し歩いてみると、黒部湖のほうから上がって来たと云う人とすれ違った。この辺りからテン場のほうにかけて、チングルマの種子が大量にあって、美しかった。
夕飯はカレー。最終日の米はうまく炊けた。ひとしきり腹もいっぱいになり日も暮れて、テントに横になったのが6時過ぎ。うとうとしかけると、遠くから人の声がし始めて、どうやら一人きりの夜ではなくなった模様。もはや日も落ちた後の到着。ああ、まだ若いカップルのようだけど...「今夜はここで焼肉パーティーや〜! 明日は早いこともないし!」などと叫びながら設営を始めた。それから10時過ぎまで、大騒ぎやら、焼肉のにおいやら...耳栓はしたのだけど、においまで防ぐことはできず。やはり、車で室堂まで入れることの功罪か。最終日に、ちょいと不幸な目にあってしまった。コイツら、休業中のヒュッテのほうから来たので、おそらく幕営料金も支払ってはいまい...あとは山を汚さずに帰ってくれることを祈るのみ。
●4日目

3時半起床。今日は5時には五色ヶ原を出るつもり。午前中のうちに室堂について、風呂に入り、その後アルペンルートを抜けて、15時までに扇沢に出なくてはいけない。テントから顔を出すと、やはり天気は下り坂なのか一面ガスが出ていて、風も強かった。
撤収し5時にテン場を出発。晴れた朝と違って、辺りはかなり暗い。ガスと風の中、木道をたどり五色ヶ原ヒュッテのほうへと向かう。道の脇にはトリカブトが多い。濃い紫色の花が風にぐらぐらと揺れている。休業中(?)のヒュッテを過ぎ、ザラ峠へと降る。この辺りからいっそう日本海側からの風が強くなり、荷を担いだまま、体がふられるようになる。一面ガスで、寒い。
ザラ峠からは、獅子岳への登り。ハイマツの中で風をよけて休憩しながら、徐々に高度を上げて行った。昨日事故を目撃したハシゴの辺りは、ちょうど東面に当たっていて、風は凪いでいた。乗り越えてさらに登っていく。しばらく行くと、なだらかなお花畑の続く道が現れた。遠くにチングルマやハクサンイチゲ、コバイケイソウが残っていてほっとした。このあたり、イワギキョウも多かった。たどり着いた獅子岳山頂はガスで展望はなし。ハイマツの中しばし休憩の後、降りにかかった。
ざれた道をどんどん降って行くと、鬼岳付近で雪渓の横断があった。ここで本日はじめての登山者とすれ違った。このあたりで空が明るくなり、少しガスが上がりそうな気配がする。落石注意の看板のあるハシゴを乗り越え、逆に今度は降って行くと、大きな雪渓の残る龍王岳の直下に出た。いったん降って、龍王岳への山腹へと登りかえしていく。4日目なので、さすがに足に疲労を覚えながら、岩がちな道を進んでいった。ガスが晴れてきて、鬼岳や龍王岳の奇怪な岩峰が近くに見え始めた。一ノ越の山荘や、黒部湖へと続く道も見えた。
登りついた浄土山の一角は、もはや深山ではなく。ツアーの一団が山頂を占拠する空間だった。しかし、眼前にガスをかすめて見える雄山、遠くに時折見える剱岳は、薬師を縦走してきたことを実感させてくれる景色だった。いや、いっそ観光プラスアルファということであれば、この眺めは手軽に得られる3000m級のすばらしい眺めだと思う。冷たいガスが急速に流れていく合間に、最後に薬師の頭の辺りが垣間見えたのはうれしかった。一服しながら、単独のおじさんと会話。今日五色ヶ原まで行くかどうか、天気で迷っているということでしたがどうしたでしょうか?
浄土山を経由して室堂へ下山。高齢のハイカーグループが難渋しながら岩場を登ってくるのと何回かすれ違う。ちょっとした段差を乗り越えるのに、ぜいぜい息をつきながら2-3分かかっている。大丈夫ですか? もちろん、すべては自己責任なのだが...! いやむしろ、そうした人が3000m級の眺めを得るのにふさわしい山なのだろうか、ここは...!?
室堂に下山。荷も軽く、空気も濃くなって、走るように観光客をすっ飛ばしながら、ミクリガ池温泉へと向かった。ミクリガ池温泉の風呂は狭い(脱衣所も)。昨日テン場で会ったおじさんに聞いた話では、雷鳥沢近くの別の宿の日帰り入浴が広くて展望もいいらしい。
風呂を済ませて、あとは扇沢へ。ミクリガ池付近から見ると、雄山や剱がガスに隠れたり現れたりしている。それはすばらしい景色。多分ここには又来るのだろうと思う。しかし、室堂に思ったより早く着いたのはいいが、予想よりかなり観光客が多い。今日は月曜なのだけど、やはり人気の観光地なのか? むしろ、土日をはずしてその前後が混んでいるのだろうか? 11時発のトロリーで室堂を去って、途中あえて観光することもせず、黒部湖で1時間の乗り継ぎ待ちののち、扇沢に13:20に到着した。あとは、酒を飲みながら、高速バスの到着を待ち...

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